
東洋医学のベースにある2つの考え方 その1”陰陽”

東洋医学にはベースとなる哲学というべき考え方がある。
ひとつは“陰陽”で、もうひとつが“五行”だ。東洋医学でからだをどうとらえるかというときの基本になる考え方である。
東洋医学を系統的に正しく理解するための4回目の今回は、そのうちの陰陽についてなるべくわかりやすく解説してみる。哲学というと難しいと思われるかもしれないが、とても大切なことだ。
目次 1-1.陰陽のルール 1-2.陰が陽に転換する? 2-1.どっちが陰でどっちが陽? |
1.陰か陽に分けるだけ?!
漢字をつかう文化をもつ人々にとっては、陰と陽はそれほど難しいことではないだろう。
簡単にいえば、あるものに陽があたっているとき、影になっているところが陰で、陽があたっているところが陽である。陰といえば暗い、重い、冷たい、下降、内向などがイメージできるし、陽といえばその反対に、明るい、軽い、温かい、上昇、外向などがイメージできるはずだ。
ただし実際にからだや病気に適用するには少しルールの説明が必要になる。
1-1.陰陽のルール
・どちらかだけでは存在しない
陰と陽は片方だけでは存在しない。つまり対立する2つのものを陰か陽かに分けるわけ。
例えば昼が陽で夜が陰。ということは、昼と夜ではからだの状態がちがうということにもなる。昼はからだが興奮、活動しているし、夜は鎮静、睡眠している。だから、陰が優勢になる夜に活動すると、陽が過剰な状態になる。興奮しすぎたり、陽が盛んになってからだがほてったり、目がさえて眠れなくなったりするのだ。
・対立しながら制約している
もちろん陰と陽は対立した正反対の概念だ。ただしお互いがお互いを制約しながらバランス(平衡)を取っている。
健康なひとが冷えも熱も感じないでいられるのは、陰(冷やす)と陽(熱する)がお互いに相手が強くなり過ぎないように制約してバランスが取れている状態というふうに東洋医学では考える。このバランスがくずれると、熱が出たり冷えたりするのだ。
・陰と陽のバランスはつねに変動している
陰と陽は、片方が強くなるともう片方が弱くなる。これがつねに変化しているものだ。陰陽の図(→)はそれをあらわしている。
例えば昼と夜についても、ここから昼でここから夜と線が引けるわけではない。真夜中はいちばん陰が強くて、そこから少しずつ陽が増えて陰が減っていって、真昼はいちばん陽が強い状態になる。そこからは陰が少しずつ増えて陽が減っていって夜になる。
この“変動”という考え方は東洋医学ではよく使われる。前にも書いたが、病気と健康もどこかで線が引けるわけではなくて、連続的につながっているものととらえる。ここが西洋医学と違うところだ。だって体温が36.9℃は健康で37.0℃は病気って変じゃない?
・内部をさらに細かく陰と陽に分類できる
例えば昼と夜をくらべれば昼が陽で夜が陰。でもおなじ昼でも午前は陽で午後は陰になる。
からだでみてみると、背中とお腹では背中が陽でお腹が陰になる。膝を抱えて丸くなったときに外側になるところが陽、内側になるところが陰である。背中の陽に対して陰になるお腹も、上の方が陽で下の方が陰。さらに、お腹の表面は陽でお腹の中は陰という具合だ。
1-2.陰が陽に転換する?
陰陽でモノゴトをみてみると結構おもしろいのだが、さらに不思議なことがある。それは性質が逆のものに転換(これを「転化」という)すること。
・陰 極まれば陽、陽 極まれば陰
ふつうは陰と陽は増減しながらシーソーのようにバランスがとれている。ところがある一定のところで増加は減少に、減少は増加に転化する。簡単にいうと、投げ上げたボールはいつまでも上昇しないであるところから下降するということ。
この理論と「以熱治熱、以寒治寒」(暑いときには熱いもの、寒いときには冷たいものがよい)という考えから、韓国のひとたちは冬に冷麺を食べるらしい。
これを病気で考えると、熱がひどくなっていくとあるときにひどい寒気がしてくるという症状のこと。「陽 極まれば陰」という。
2.陰陽をつかってみよう!
陰陽を実際にいろいろとつかって世のなかのものを見てみると、これがなかなかおもしろい。
2-1.どっちが陰でどっちが陽?
上が陽で下が陰、男が陽で女が陰、外が陽で内が陰。日本人ならだいたい分かるはずだ。
ただし、陰陽論をつきつめていくと男は女に対しては陽であるが、子として親に対すれば男の子は陰である。女は男に対しては陰であるが、親として子に対すれば陽である、となる。前は後に対すれば陽であるが、前の前なる者に対すれば陰である。陰陽は無限の変化であるということになって、むずかしいのでこのあたりで止めておこう。
それでは問題!
・右と左、どっちが陽でどっちが陰?
正解は左が陽で右が陰。
どうしてそうなるのかについて、東洋医学の古典にはこんなことが書いてある。
むかしは偉い人は南面(南に向かって)して座ることになっていた。つまり臣下は北に向かって座るわけ。朝廷などでは仕事は朝(午前中)おこなうので、そのときに太陽は東から昇るため左側に陽があたるので左が陽となる。
それ以外にこんな説もある。左右の訓読みは「ひだり」と「みぎ」で、「ひ」は「火」を意味し、「み」は「水」を意味し、火は陽、水は陰だから、左が陽で右が陰となる。
さらにこんなのもある。太陽神である天照大神(アマテラスオオミカミ)は伊邪那岐命(イザナギノミコト)の左目から、月の神である月読命(ツクヨミノミコト)は右目から誕生したとされる。素晴らしい!
・奇数と偶数、どっちが陽でどっちが陰?
正解は奇数が陽で、偶数が陰。
これにもいろいろな説があるが、陰陽において奇数は動的で不安定な数なので陽とされ、偶数は静的で安定した数なので陰とされている。つまり、偶数は収まりがよくてそのままで完結しているが、奇数は変化しようとする性質があり、次に移るとか続くという性質を持っているといえるのだ。偶数は偶数どうしを足しても引いても掛けても偶数しか生まないが、奇数は偶数も奇数も生み出す発展的な数字だという考え方だ。
この古代中国の陰陽という考え方が日本に伝わり、奇数が縁起がよいとされ、日本でも定着したというのだ。例えば、陽である奇数が重なった日に縁起のよい節句が行われる。3月3日は上巳(ジョウシ)の節句、5月5日は端午(タンゴ)の節句、7月7日は七夕(シチセキ)の節句、9月9日は重陽(チョウヨウ)の節句。
偶数のように収まりがよいものをよしとせず、発展的、つまり不安定な数字の奇数を好むなんてところは東洋的でいいと思う。
2-2.治療とは陰陽のバランスを調えること
そういう意味で東洋医学の治療について考えると、その主な目的は陰陽のバランスを調えることであるといえる。そのあたりについて少し説明しよう。
・病には陰と陽がある
東洋医学で病気を分類していくときにおおまかには“陰の病”と“陽の病”に分ける。いま何らかの不調を抱えている方は、自分の状態が陰に属しているのか、陽に属しているのかを考えてみてほしい。以下に“陰の病”と“陽の病”の特徴をあげる。
・陰の病(陰証という)
これに属する症状としては、
・冷えている(単純に寒いとか冷たい) ・からだの内側に問題がある(からだの中が熱いなど) ・必要なものが不足している(元気、やる気、体力など) ・はたらきが低下している(お腹が弱いなど) ・鎮静している(痛みとしては我慢できないほどではない鈍痛など) |
・陽の病(陰証という)
これに属する症状としては、
・熱がある(体温が高くなくても熱っぽいなどを含む) ・からだの外側に問題がある(からだの外側が冷えるなど) ・不必要なものが余分にある(むくみなど) ・はたらきが亢進している(頭が冴えて眠れないなど) ・興奮している(痛みとしては我慢できないほどの激痛など) |
陰陽という考えを使ってからだを診るメリットは測り知れない。まずはこんな見かたでご自分のからだを見つめてみてはどうだろうか?
〈 過去の連載 〉
第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1」
第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2」
第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3」