東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その5

 五臓の4つ目は“肺”について前回同様に三つに分けて説明する。

 一つめは「はたらき」。肺がどのような臓で、どんなことをしているのかについて。

 二つめは「肺のグループ」。肺という臓と関連が深いからだの部分や精神に関すること。

 三つめは「病」。肺に関連して生じる病について。

 五臓は東洋医学のなかでももっとも重要な内容なので、引き続きしっかり理解してほしい。

 

目次
1.肺のはたらき
 1-1.肺ってどんな臓?
 1-2.呼吸にかかわる
 1-3.気や水を全身にめぐらせる
2.肺のグループ
3.肺の病
 3-1.気や水がうまくめぐらないと・・・
 3-2.肺の乾燥と熱

 

 

1.肺のはたらき


 

 それでは肺のはたらきからみていこう。

 肺は西洋医学的にも呼吸器系にかかわる重要な臓器である。酸素を取り込んで二酸化炭素を排出するというのが呼吸の役割だが、東洋医学的にいうと、清気を吸い込み濁気を吐き出すということになる。

 もちろんこれまで説明してきた臓と同様に、肺という臓のはたらきやそれと系統的につながっている、あるいは関連して影響がでるからだのいろいろな器官あるいは精神なども含めた考え方全体を指して“肺”といっているのである。

 

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1-1.肺ってどんな臓?

 まず肺という臓はどんな臓なのかについてみてみよう。

 

・五行では“金”に属する

 肺は五行では金に属する。第5回で学んだように金属は固くて冷たい、収斂(引き締まる)というイメージだ。季節では秋が相当する。

 東洋医学を学ぶときに気をつけるべきことのひとつに季節がある。東洋医学というのは第1回でも書いたように古代中国の医学である。中国と日本では季節の特徴が多少異なる。ここで五行の金に属する秋の季節特徴だが、一般的には乾燥していて冬に向かって寒さがすこしずつ増してくる時期とされている。ところが日本の秋はどちらかというと雨が多い。秋の長雨とか台風の季節だからだ。つまり中国の乾燥という特徴はあまり当てはまらないと考えた方がいい。日本の場合、乾燥といえば冬だ。

 東洋医学で冬の特徴は寒、つまり冷えだが、日本の冬は寒と燥の両方が合わさるので、特に呼吸器系つまり肺の病に気をつける必要があるということになる。中国のものをそのまま持ってきてもうまくいかないので、アレンジする必要があるということ。

 同じことは食養生についてもいえるわけだ。中国と日本では慣れ親しんでいる食材が違うので、薬膳・食養などについてもアレンジが必要だ。

 

・重さやかたち

 重さやかたちについて前回も紹介した『難経』(四十二難)という古典のなかに次のように書かれている。2016-02-28 08.19.36

 「肺は重三斤三両,六葉両耳,凡て八葉,魄を蔵するを主(ツカサド)る」(重さが三斤三両、六つの葉と二つの耳、全部で八つの部分でできている。魄を蔵するを主る)。

 八葉というかたちについては右図で一目瞭然だと思う。

 肺は五臓のなかでももっとも高いところにある。そのため『素問』という古典では「肺者蔵之蓋也」(肺は臓の蓋(フタ)である)とされ、また別名として“華蓋”(これは天子など偉い人に家来がさしかける柄の長い日傘のようなもののこと)というのもある。

 

・臓と腑のつながりでは、肺と大腸

 肺と大腸の関わりが密接だなんて、西洋医学的にみれば???である。だが東洋医学では同じ五行に属する臓と腑には強いつながりがあると考える。今回の肺には大腸。これはある意味すごい関係性なのだ。皮膚に現れるさまざまなアレルギーなどは、もちろん肺の状態を良くすることが大事だが、大腸の状態が良くなると改善しやすい。

 やっと最近、西洋医学でもアレルギーと大腸あるいは腸内環境との関係を言いだしたが、そんなことは東洋医学では数千年前から言っていたというわけだ。

 お肌の状態を良くしたければ、上にいろいろ塗るのではなく腸でしょ!そこで重要な食べ物は発酵食ですよ。

 

 

1-2.呼吸にかかわる

・天の陽気を取り入れる

 肺は呼吸によって“天の陽気”(つまり簡単にいうと空気のことで、前述した清気と同じ)をからだのなかに取り入れる。

 この天の陽気と前回学んだ脾(胃)のはたらきによって得た“地の気”(つまり水穀=飲食物のこと)が合わさって気・血・水がつくられるわけだ。

 もちろんからだのなかの汚れた気、つまり濁気をからだのそとに出すのも呼吸の役割であるのは当然のこと。それは東洋医学でも同じだ。cd567be08bf21b436420da60675a562d_s

 ところで、天地とツボについて右図を見てほしい。鼻と口の間に“人中”というツボがある(赤い点)。専門的には“水溝”とよばれるツボだ。

 鼻は呼吸器系なので天の気を取り込むところ。口は消化器系なので地の気を取り込むところ。そしてそのあいだ、つまり天と地のあいだには人がいるわけで、そこで人中。ここは武術などでは急所になるし、鍼灸では気を失ったときの気つけのツボでもある。

 どうです、オモシロいでしょう?

 

・肺は雲のような存在?!

 肺を自然界で例えると雲のような存在だという。これは中医学の仙頭先生の表現だ。まさに肺のはたらきを言い表している表現だと思う。

 自然界での雲とは、水が蒸発し、雨になりという循環する大気と成層圏の境界にあり、地上の環境を守り、紫外線などが地上に届かないように跳ね返している。

 これをからだに当てはめて考えると、人体と外界とを隔てる働きをしているとみることができるのだ。つまり外敵(外邪)からからだを守ると同時に、気・血・水のめぐりがからだの外に漏れないように守るバリアでもあるということ。また必要なものをからだに取り込み、不要なものをからだの外に放出するはたらきも担っている。

 

 

1-3.気や水を全身にめぐらせる

・気や水をめぐらせる=宣発

 肺は気や水をからだの外方向や上方向に押し広げるはたらきがある。これを専門的には“宣散”という。このはたらきによって、気は頭のてっぺんから足のつま先まで行き渡るのだ。

 それからもうひとつ、からだを外邪から守るはたらきのある“衛気(エキ)”という種類の気(じつは第3回で学んでいる)を体表に広めるのもこのはたらきによるわけ。

 

・気や水をからだの下に降ろす=粛降

 「粛」は清粛つまり清らかで静かなこと、「降」は下降を意味している。このはたらきによって、気を足の先まで降ろしたり、鼻から取り入れた清気を肺に降ろしたり、余分な水を尿として排泄したりできるわけだ。これもまた肺のだいじなはたらきだ。

 

 

 

2.肺のグループ


 

 肺は単に肺のはたらきという意味ではないのは前に書いたとおり。肺に関連するからだのいろいろな部位、あるいは精神をも含めた系統を意味するグループ名のことだ。

 肺のグループで重要なものは鼻・涕・皮毛・魄・憂・悲・辛などである。それではひとつずつみてみよう。

 

・鼻・涕434abc594ce1ab91dbe39ebb0da75d97_s

 鼻は清気を取り入れ、濁気を排出する出入り口という役割をはたしている。また、外界と肺をつないでもいる。その鼻に潤いをあたえているのが涕、つまり鼻水だ。肺は乾燥に弱く、乾燥していると様々な外邪を取り込んでしまうので、涕の役割は大切なのだ。

 鼻で呼吸すると風邪を引きにくいというのも、同じ理屈。口呼吸はダメ、鼻呼吸。なぜって、口は消化器系で食べる器官だから。

 

・皮毛cb78071a91912352a661986a782e3768_s

 皮と毛をあわせて皮毛とも呼ぶ。皮膚・汗腺・体毛を合わせた体表組織のことだ。皮毛は、さきほど説明した外邪からからだを守るバリアにあたる衛気と共同で外邪からからだを守っている。また、汗腺を開いたり閉じたりすることで体温を調節してもい
る。皮膚に潤いをキープするのも肺のはたらきのひとつなのだ。

 そう考えると例えば乾布摩擦。乾いた布で皮膚をこする健康だが、これには皮膚を鍛えることで肺を良い状態にするという意味があることがわかる。

 

・魄

 魄とは例えば乳児が乳を吸うような本能的行為や、習慣化した日常の動作を起こさせたり、痛み・かゆみなどの感覚をもたらし、注意を集中させるなどに関与している。

 魄が衰えることで、注意力が散漫になったり、物覚えが悪くなったり、皮膚の感覚が鈍くなったりする。もちろん気魄が不足しがちになる。

 

・憂・悲

 憂・悲は肺と密接な関係にある感情で、気の流れが悪くなったり、気が消耗するなどの異常を生みだし、気を作りだしたりする肺のはたらきに悪影響をおよぼす。また逆に、肺のはたらきが低下すると憂いたり、悲しんだりしやすくなるのだ。

 

・辛976347d078882e074d36255188f0431b_s

 辛味には、気を発散させたり、気をめぐらせたりするなどのはたらきがある。肺と非常に関係が深く、適度に摂取することによって肺および大腸のはたらきを助けてくれる。

 

 

 

3.肺の病


 

 肺という臓、あるいは肺のグループに関連しておこる病について説明する。

 

3-1.気や水がうまくめぐらなくなると…

・宣発がうまくいかないと…

 咳やくしゃみ、鼻づまりなどの症状が出やすくなる。からだを守るバリアも弱るので、かぜを引きやすくもなる。また汗腺の開閉がうまくいかなくなるので、むやみに汗をかくようになる。

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・粛降がうまくいかないと…

 息を深く吸い込むことができなくなる。その結果として、息切れや咳が出だす。

 

・水が動かなくなると…

 水の停滞によって肺などに痰がたまるようになり、喘息などになる可能性が高まる。顔や手足に水が停滞すると、むくみがでる。

 

3-2.肺の乾燥と熱

・肺は熱を帯びやすい臓

 肺は五臓のなかでももっとも上にある。自然界では熱は上に向かう傾向がある。つまり肺という臓は熱を帯びやすいわけだ。熱を帯びれば乾燥する。その結果として空咳や血痰がでたりもするし、喉が渇いたり、声が枯れたりもするわけだ。

 

 

第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1

第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2

第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3

第4回「東洋医学のベースにある2つの考え方 その1

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第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!

第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1

第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2

第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3

第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1

第11回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2

第12回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その3

第13回「東洋医学エピソードシリーズ1「鍼灸がこんなことに効くって知ってました?」

第14回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その4

第15回「東洋医学エピソードシリーズ2「肺癌末期の女性患者について」

 

次回の「東洋医学エピソードシリーズ3は「サンフランのエイズ患者」。

3/7ころに公開予定。

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