臨床エピソードシリーズ12 「鍼灸のプラス効果」

鍼灸についてのお話、今回は鍼灸にはプラスの効果があるというお話です。

 

1.岡部先生との出会い


 

 私には仙台の専門学校の鍼灸科で教鞭をとっていた時期があります。

 その時にお世話になっていた方の一人に、がん末期の患者さんを中心に在宅緩和ケアを行っていた岡部医院の岡部健先生がいます。

 

 WHOによる定義によると、cbe30ca480aae89575bb0ac12c1221cb_s

 緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、 心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に発見し、的確なアセスメントと対処(治療・処置)を行うことによって、 苦しみを予防し、和らげることで、クオリティ・オブ・ライフを改善するアプローチである。

となります。

 単に終末期だけのケアということではないし、家族も含めての対応であること、痛みだけではなくスピリチュアルな問題までも含んでいるのだということ、などをよく先生からもお聞きしたのを覚えています。

 

 先生が在宅医療を始めたのは、宮城県立がんセンターに所属していたときにボランティアで行っていた在宅診療で、自宅で最期を迎えた患者さんたちがみな安らかな顔だったからだとおっしゃっていました。

 先生が看取った患者さんはなんと2,000人を超えるそうです。

 

 

2.クリニックを見学に


 

 私が岡部先生と知り合うことができたのは、松戸にある在宅専門クリニックに鍼灸師として加わっていた2004年に遡ります。

 このブログでもご紹介したことがある医師と協働で在宅で癌の末期の患者さんや重症度の高い患者さん、寝たきりの患者さんなどを診ていたクリニックです。

 

 そこの医師の一人が、全国の在宅専門クリニックを訪ね歩くという活動を行っていて、あるとき

 「島田先生、仙台に鍼灸師を2名抱えている在宅専門医院があるんですけど、一緒に見学に行きませんか?」

 と言われ、二つ返事で承諾しました。

 

 当日は午前と午後に分けて、岡部先生の臨床と鍼灸の先生の在宅での診療風景を見学させていただきました。

 鍼灸の効果について、患者さんもご家族もそして医師や他のスタッフも共有している現場を見ることができ、その後の自分の臨床にとても参考になりました。

 岡部医院では医師だけでなく、看護師、PT、ソーシャルワーカー、鍼灸師、ケアマネージャーなど様々なスタッフがチームとして患者さんをバックアップしていました。

 本当の意味でのチーム医療というのは、医師を頂点とするピラミッド型の日本の典型的な医療制度では実現しにくいわけで、その問題についても岡部先生の考え方は素晴らしかったのです。

 「在宅緩和ケアでは、医者はあんまり役に立たないんだよ」と苦笑いしながら語った先生の言葉には非常に驚かされました。

 事実、カンファレンスでも医師の主導というより、すべてのスタッフから積極的な意見が出ていて、鍼灸師もその一員として重要な役割を果たしていました。

 その頃の私はまだ在宅での鍼灸を始めたばかりでしたので、カンファレンスで堂々と意見を言う同じ鍼灸師の彼らを見てとても刺激を受けたのを覚えています。

 

 

3.仙台の学校へ


35a031d5a9e6b5115a43718d513dd802_s

 

 偶然にも私はその半年余り後に仙台の専門学校の教員となり、週の半分以上を仙台で過ごすことになりました。

 結果的に、岡部医院の鍼灸師たち、そしてもちろん岡部先生と国分町でお酒を飲む機会がとても増えました(笑)

 私の東京衛生学園時代の教え子が、私の紹介で岡部医院を見学させていただいたのが縁でスタッフに加わっていたのもお付き合いが深まった理由のひとつかもしれません。

 

 ある時、いつものように日本の医療の問題点などについての話を伺いながら飲んでいると、岡部先生がこんなことを言いました。

 「鍼灸はいいよなぁ、プラスがあるから」。

 私が「えっプラスですか?」と聞き返すと、

 「そうだろ。西洋医学はマイナスをゼロにするまでしかできないんだ。例えば折れた骨を元通りにくっ付けたり、熱が出たのを下げたりするだけ。でも鍼灸はそれだけじゃないよな。気持ちいいとか、体が温まったとか、気の流れが良くなったとか、いろんなプラスの効果があるじゃないか。これは凄いよ」と。

 確かに先生がおっしゃる通りです。

 私はそれまではどちらかというと治療効果のことばかり意識していましたが、岡部先生のその話を聞いてからは治療以外のプラスの効果も意識して治療をするようになりました。

 気持ちがイイとか、体が軽くなったり温まったりって、とても大切なことですからね。

 

 本当に残念なことに岡部先生は2012年の9月に逝去されました。

 先生のことを記した「看取り先生の遺言」(奥野修司著、文芸春秋)が出版されて、その本を岡部医院にいた鍼灸師の先生が私に送ってくれました。

 先生とのことを思い出し、帯にある先生の痩せ細った顔を拝見し、しばらくのあいだその本を読むことができなかったです。

 

 先生のご冥福をお祈りするとともに、”鍼灸のプラス効果”がもっと世の中に広まることを願っています。

 

 

治療が楽しくなる鍼灸師を育てたい!

本ブログの執筆者島田 力が講師をする「やりなおし鍼灸治療学」が7/10からスタートしました。

受講料は月々15,000円
オンライン動画でスマホ・タブレット・パソコンで視聴できるのでいつでもどこでも学べます。
テキストは講師も執筆している『新版 東洋医学概論』

1期生は1年間のオンライン講座終了後に受講できる実技スクーリング(3日間)

9万円 → 7万円で受講できる特典つき(1期生のお申し込みは8月31日まで)
お申し込みはお早めに

やりなおし鍼灸治療学

 

 

 

 

第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1

第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2

第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3

第4回「東洋医学のベースにある2つの考え方 その1

第5回「東洋医学のベースにある2つの考え方 その2

第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!

第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1

第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2

第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3

第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1

第11回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2

第12回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その3

第13回「東洋医学エピソードシリーズ1「鍼灸がこんなことに効くって知ってました?」

第14回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その4

第15回「東洋医学エピソードシリーズ2「肺癌末期の女性患者について」

第16回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その5

第17回「東洋医学エピソードシリーズ3「サンフランのエイズ患者」

第18回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その6

第19回「東洋医学エピソードシリーズ4「家内の胃の痛み」

第20回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その7

第21回「東洋医学エピソードシリーズ5「拒食症」

第22回「東洋医学のツボをはずさないために その1 経絡

第23回「東洋医学エピソードシリーズ6「ねん挫」

第24回「東洋医学のツボをはずさないために その2 ツボ

第25回「東洋医学エピソードシリーズ7「梅の種」

第26回「東洋医学のツボをはずさないために その3 経脈各論1

第27回「東洋医学エピソードシリーズ8「裏内庭」

第28回「東洋医学のツボをはずさないために その4 経脈各論2

第29回「東洋医学エピソードシリーズ9「小指で三陰交」

第30回「東洋医学のツボをはずさないために その5 経脈各論3

第31回「東洋医学エピソードシリーズ10「自然気胸」

第32回「東洋医学のツボをはずさないために その5 経脈各論4

第33回「東洋医学エピソードシリーズ11「ばね指」

第34回「特別編「日本鍼灸の実情と今後」

第35回「東洋医学のツボをはずさないために その6 経脈各論5

 

次回は「東洋医学のツボをはずさないために その7経脈各論6」

8/8ころに公開予定。

Back to Top ↑