東洋医学エピソードシリーズ3 「サンフランのエイズ患者」

今回の鍼灸治療のお話の舞台はサンフランシスコです。

 

1.サンフランで遊学


 もう14年近く前になりますが、2002年の日韓共同開催で盛り上ったサッカーのワールドカップの年、私と5450847cc424f17ed7490dacbc19f5a2_s
家内は夫婦して仕事を辞め、3ヶ月間サンフランシスコに遊学に行っていました。

 一度くらいは日本以外の地に住んでみたかったというのが大きな理由ですが、それにしても次の仕事も決めずに夫婦で海外に行くなんて、いま考えるとその無謀さに笑ってしまいます。

 それまで東京の鍼灸学校で教員をしていた縁で、カリフォルニア州の東洋医学の資格を取得できるサンフランシスコの大学院大学で授業の見学をしたり、臨床実習のお手伝いをさせてもらうことになりました。

 サンフランシスコはとてもキレイで可愛らしい街で、帰国後も何度も遊びに行ったくらい気に入ってしまいました。

 

 

2.東洋医学の大学院大学


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 当時まだ日本では鍼灸学校の卒前教育で臨床実習が行われていませんでしたが、この大学では学生が作業を分担して患者さんの治療をしていました。

 私は1、2年生のみの実習班の助手に加わって見学をしていたのですが、ある時、担当の先生が他の実習生に呼ばれて部屋を離れる間、患者さんの治療を代行するよう頼まれたんです。

 英語は正直な所ホントに片言でしたので、かなり緊張しました。

 しかもその患者さんは屈強な体格のHIV陽性の同性愛者、ボブ(仮名)です。彼氏を同伴して治療に来ていました。偏見はないのですがなんとなくどう接していいか分からず戸惑っていました。

 この大学はAIDSに対する東洋医学の効果を研究していましたので、カルテには必ずHIVの検査結果が記されています。話では知っていても、実際に目の前にエイズの患者さんがいるという事態に、心が動揺していたのは事実です。

 

 

3.ボブの鍼灸治療


 話をもとに戻します。ボブの鍼灸治療です。

 ボブは前回まで中国鍼(日本の鍼よりかなり太い)の治療を受けていました。というのも基本的にアメリカなどの海外では「鍼や漢方といえば中国のもの」というのがあたりまえです。ですが、私のついた先生が日本の鍼を使う唯一の先生だったので、細い日本の鍼による治療を希望し、その初回が私の治療だったわけです。

 主訴は確か食欲不振、下痢と不眠。エイズの場合、ちょっとしたことで下痢をしたり、b91a288f3b6e7efff1baa1bb41ff4fb1風邪を引いたりします。なにせ免疫が落ちているわけですから。また死に対する不安からか、不眠を訴える患者も多いようでした。

 私はなんとか落ち着きを取り戻し、治療を終えました。

 ボブは「まったく痛くなかったよリッキー(私の海外での通称です(笑))」と喜んでいましたが、ボブの屈強な彼氏が「それで効果はあるのかな?」と低い声で呟きます。

 私は英語の不得意な日本人が外人に向かって必ずそうするように、あいまいな笑顔を作って彼らを送り出しました。

 

 

4.学生に叱られた!


 ボブの治療後、昼休みのことでした。 学生数人と大学前のテラスで昼食をとっていたとき、ある女子学生が私に質問してきました。

「リッキ―、エイズの患者は日本でもよく治療してたの?」

「えっ、治療したことないよ」と私が答えると、

彼女は驚いて、「日本にはエイズ患者がいないの?」と。

「いや、そんなことはないと思うけど、ここみたいにHIVの陽性だとわかっている患者を治療する機会はなかったんだ」

すると「そうなんだぁ。で、治療してみてどうだった?」と興味津々で聞いてきます。

私はちょっと困った挙句、「少し恐かった」と答えました。

正直、エイズ患者に刺した鍼を自分に刺してしまったらどうしよう、などと考えながら治療していました。

すると彼女は、「なぜAIDSが怖いの? AIDSよりB型肝炎の方がずっと感染力が高いじゃない。それは偏見よ」そう言ってちょっと声を荒げました。

冷静に考えればその通りです。私は「すまない。確かに君の言うとおりだ」と謝まりました。

 

5.ハグ


 翌週のことです。ボブの予約が入っていた実習に運良く私も助手として入っていました。142107134_6bf9a60ddf_o

 ドアを開けて先に入ってきたのはあの屈強なボブの彼氏です。つかつかと私の方へ足早に歩み寄ります。

 「まずいっ」と咄嗟に思いましたが、次の瞬間その彼に激しくハグされ、耳元で「ありがとうリッキー、ボブはとっても調子がいいんだ」と囁かれました。

 体中の力が抜ける思いでした。すぐ後からボブが笑顔で部屋に入ってきて改めて感謝の言葉をもらいました。

 「痛くないのにとっても具合が良くなったよ。ありがとう」。

 もちろんAIDSが治ったわけではないのですが、鍼灸で様々な症状が軽くなるのを知ったことは、私の臨床における宝になりました。

 

 

第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1

第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2

第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3

第4回「東洋医学のベースにある2つの考え方 その1

第5回「東洋医学のベースにある2つの考え方 その2

第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!

第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1

第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2

第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3

第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1

第11回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2

第12回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その3

第13回「東洋医学エピソードシリーズ1「鍼灸がこんなことに効くって知ってました?」

第14回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その4

第15回「東洋医学エピソードシリーズ2「肺癌末期の女性患者について」

第16回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その5

 

次回の「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その6」は腎。

3/14ころに公開予定。

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