前回は肝について説明した。五臓の第2回目の今回は“心”について前回同様に三つに分けて説明する。
一つめは「はたらき」。心がどのような臓で、どんなことをしているのかについて。
二つめは「心のグループ」。心という臓と関連が深いからだの部分や精神に関すること。
三つめは「病」。心に関連して生じる病について。
五臓は東洋医学のなかでももっとも重要な内容なので、しっかり理解してほしい。
目次 |
1.心のはたらき |
1-1.心ってどんな臓? |
1-2.意識と思考をつかさどる |
1-3.全身に血を送りだす |
2.心のグループ |
3.心の病 |
3-1.意識にかかわるトラブル |
3-2.循環器系の不調 |
3-3. 熱に弱い |
1.心のはたらき
それでは心のはたらきからみていこう。
東洋医学は心身二元論であると以前に書いた。この「こころ」と「からだ」というときのこころは、心(という臓)にあると考えるのだ。そういう意味では、心は精神の中心的な存在だといえる。
もちろん前回説明した肝と同様に、心という臓のはたらきやそれと系統的につながっている、あるいは関連して影響がでるからだのいろいろな器官あるいは精神なども含めた考え方全体を指して“心”といっているのは当然である。
1-1.心ってどんな臓?
まず心という臓はどんな臓なのかについてみてみよう。
・五行では“火”に属する
心は五行では火に属する。火はわかりやすい。第5回で学んだようにいわゆるFireである。炎が燃えてものを温めるというイメージだ。季節では夏。
つまり心という臓は火の性格をもった臓だということができる。それゆえに逆に熱に弱かったりもする。
古代中国のひとびとが解剖をしていたことが明らかなことは以前にも述べたが、心臓のなかには血がたくさんあり、血→赤→熱→五行の火という流れでの連想は容易に思いうかぶ。
・重さやかたち
重さやかたちについて前回も紹介した『難経』(四十二難)という古典のなかに次のように書かれている。
「心は重十二両、中に七孔三毛あり。精汁三合を盛り、神を蔵するを主(ツカサド)る」(重さが十二両、中に七つの孔と三本の毛があり、神をしまっている)。
換算すると心臓の重さは約192gとなる。現代で体重の約200分の1で約200~300gとされるのとほぼ同じになる。中に7つの穴が空いていて、三本の毛が生えているとある。穴は動脈や静脈へとつながるものだし、毛は弁のことか?
よく「心臓に毛が生えている」と強心臓の人のことをたとえるが、どうやらみんな生えているらしい。
1-2.意識や思考をつかさどる
・“神”をしまっている
東洋医学ではよく臓腑を擬人化する。そういう表現でいうと、心は“君主”とよばれる。王様とか最高指導者といったような意味である。
精神という言葉はよく知っていると思うが、じつは“精”と“神”はべつのものを指している。
“精”というのは以前に説明したが、生命の根本をなす物質である。気や血のもとになるものだ。父と母の精が合わさったものが腎にしまわれて生まれてくる。それが“先天の精”。食べものや空気から取りいれて生きる糧になるのが“後天の精”だ。
一方“神”の方はというと、上に書いたように「心に蔵されている(しまわれている)」とされるもの。ではどのようなものかというと、ものごとを知覚したり、考えたり、判断したりといったすべての精神活動をたばねているものだ。この神がしっかりしていれば、意識活動も無意識の活動もともに適切に行われるということ。
肝と魂の関係もそうだったが、臓腑とこころとのつながりというのが東洋医学のオモシロイところでもある。
1-3.全身に血を送りだす
・ポンプとしてのはたらき
前回の肝で学んだように、肝は血をためておき、それをどのくらい心に送るかをコントロールしている。その肝から送られてきた血を全身にくまなく行きわたらせるポンプの役割をするのが心というわけ。
西洋学的にはいわゆる循環器系のはたらきのこと。だからこれがうまくいかなくなると、胸苦しさ、動悸、不整脈などの症状が現われる。もちろん血流が多い顔などが青ざめる。
・からだを温める
心は五行で火に属しているが、からだの陰と陽という意味では陽の中心的な存在だ。つまりからだを温めているわけ。だが逆に熱化しやすく熱を嫌うという性質もある。
からだが熱をもつと不眠などになる。よく寝るときに寒いから部屋を暖房している方がいるが、ひとのからだはあまり温かいと眠れないもの。寝ているときのからだは、体温も呼吸数も心拍数もすべて最低になっているからだ。
2.心のグループ
心は単に心臓のはたらきという意味ではないのは前に書いたとおり。心に関連するからだのいろいろな部位、あるいは精神をも含めた系統を意味するグループ名のことだ。
心のグループで重要なものは舌・顔・汗・脈・神・喜・苦などである。それではひとつずつみてみよう。
・舌
心は舌の動きと味覚にかかわっている。だから心が病むとうまく舌が動かせなくなってしゃべりずらくなったり、味がわからなくなったりする。
・顔の色とツヤ
心は血を全身に送りだすポンプのはたらきをしているが、その血は脈(血管のこと)のなかをとおっていく。血管が多くいっている顔は血液の運行状況を反映しやすいというわけだ。だから心の状態がよければ顔色がイイし、ツヤもあるということになる。
・汗
からだの水分のなかで心とかかわりが強いのが汗だ。だからむやみに汗をだすと心によくない。心の状態がよければ汗も適度にでるわけ。暑くもなく、たいして動いてもいないのにジワッと汗ばむことがあるが、あれは専門的には自汗(ジカン)といって気が不足している証拠なのだ。
・脈
上にも書いたが、心は脈をとおして全身に血を送りだしている。だから心がしっかりしていれば脈拍も規則正しくしっかりと打つのだ。不整脈などは心の異常となる。これは西洋医学的にみても当たりまえのことだ。
・神
神については上で詳しく書いたのでここでは省くが、精神活動全般をコントロールするのが神で、さらには生命そのものを統率しているとも考える。
いわゆる「こころ」は心臓にあるというのが東洋医学の考え方。現代医学では「脳」を重視し、ここに「こころ」があると考えるのとは対照的だ。これを否定するのもひとつの考え方だが、なぜひとが自分を指し示す時に胸を指すのかなどと考えてみるのもオモシロイかもしれない。
・喜
心と関係がふかい感情としては“喜”がある。喜ぶと“気がゆるむ“ともいわれ、適度であればいいのだが、喜びすぎると気が緩み過ぎてよくないようだ。
西洋医学では笑ったり喜んだりすると免疫力が上がるといわれるが、東洋医学では「過猶不及(過ぎたるはなお及ばざるがごとし)」(『論語』)といわれるように、なにごとも「適度」であるのがよいとされる。
・苦
薬膳で心と同じ五行に属する味が“苦”だ。苦い味には、熱を冷ましたり、降ろしたりするはたらきがある。熱というのはふつう上に向かう性質があるので、それを冷ますあるいは降ろすことが必要になるわけだ。夏などにニガウリを食べるのは理にかなっている。
心が熱化しやすい臓だから、苦い食材を食べて心の熱を冷ますという意味あいもある。心の状態が悪い時には苦いものを食べるのがイイし、逆に心の状態が悪い時には苦いものが食べたくなったりするとも考えられる。
ちなみに、口のなかが苦く感じられることがあるが、あれは「口苦」といって、熱のあるときに出てきやすいサインだ。
3.心の病
心という臓、あるいは心のグループに関連しておこる病について説明する。
3-1.意識にかかわるトラブル
・“神”のはたらきがうまくいかないと…
神というのは意識と思考にかかわる重要なはたらきをしているので、これがうまくいかなくなると、考えたり、判断したり、それらにもとづいて行動したりすることがうまくできなくなる。
具体的には「不眠」とか「物忘れがひどい」などの症状もこの神の影響によると考える。それがさらに悪化すると精神障害というかたちで現われてくる。
3-2.循環器系の不調
・血を送りだすことがうまくいかなくなると・・・
血を送りだすことがうまくいかなくなると、まず脈拍に異常がでる。不整脈や動悸などだ。さらに血流が悪くなるので、顔の色ツヤも悪くなるし、手足の血のめぐりが悪くなれば冷えにもつながる。
3-3.熱に弱い
・熱を嫌う
心はからだの上部にある臓だ。自然界で温かい空気が上の方へと向かうのと同じように、ひとのからだでも上の方が熱の影響を受けやすいので、熱を帯びやすい。そこにさらに熱が加わると、心のはたらきにいろいろと問題が生じる。結果的には動悸がしたり、胸のあたりに不快感が生じたり、不眠になったりするのだ。
第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1」
第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2」
第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3」
第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!」
第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1」
第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2」
第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3」
第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1」
第11回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2」