五臓の最後である5つ目は“腎”について前回同様に三つに分けて説明する。
一つめは「はたらき」。腎がどのような臓で、どんなことをしているのかについて。
二つめは「腎のグループ」。腎という臓と関連が深いからだの部分や精神に関すること。
三つめは「病」。腎に関連して生じる病について。
五臓は東洋医学のなかでももっとも重要な内容なので、引き続きしっかり理解してほしい。
目次 |
1.腎のはたらき |
1-1.腎ってどんな臓? |
1-2.精をしまっている |
1-3.水をコントロール |
1‐4.深い呼吸 |
2.腎のグループ |
3.腎の病 |
3-1.精が不足すると・・・ |
3-2.水のコントロールの不調 |
1.腎のはたらき
それでは腎のはたらきからみていこう。
腎は成長・生殖・老化などにかかわる重要な臓である。精をしまい、からだ全体の水の代謝をコントロールしている。
もちろんこれまで説明してきた臓と同様に、腎という臓のはたらきやそれと系統的につながっている、あるいは関連して影響がでるからだのいろいろな器官あるいは精神なども含めた考え方全体を指して“腎”といっているのである。
1-1.腎ってどんな臓?
まず腎という臓はどんな臓なのかについてみてみよう。
・五行では“水”に属する
腎は五行では水に属する。第5回で学んだように生命の源、あるいは下方向に流れる性質のものというイメージだ。季節では冬が相当する。
五行的にみて、からだの熱と冷えの中心となる臓は心と腎だといえる。心は五行では火に属するので心火とよばれ、からだを温める。腎は水だから腎水とよばれ、からだの熱をとる。からだが熱をもったり冷えたりしないで適温に保たれるためには、この心火と腎水のバランスが大切になるということ。どちらかが亢進しても減退してもバランスが崩れるのだ。
ここで第7回で学んだことをもう一度思い出してみよう。以下のような内容だ。
ひとは “父の精”と“母の精”が合体して誕生する。これが“先天の精”で腎という臓にしまわれて生まれてくる。この先天の精は“原気(元気)”という気になり、生命力の源になる。ちなみにこの原気は臍下の”丹田”というところにたくわえられる。
これをみると、生命の根源である精と腎の関係がよくわかると思う。また、先天的にもっている元気が精と関係あるとともに、この先天の精は成長・発育・生殖・老化などとも深くかかわっているのだ。
アンチエィジングという言葉にはあまり頷けないが、いってみれば“スローエィジング”にかかわる臓が腎ということになる。
・重さやかたち
重さやかたちについて『難経』(四十二難)という古典のなかには次のように書かれている。
「腎は両枚あり。重さ一斤一両、志を蔵するを主(ツカサド)る」(腎は二枚あり、重さが一斤一両、志を蔵するを主る)。
左右に一対ある。かたちについては右図見てほしい。
腎は五臓のなかでももっとも低いところにある。もちろん、西洋医学で説明される「血液をろ過して尿をつくる」というはたらきも併せもっていると考える。
1-2.精をしまっている
・気血を生みだす
精というのは気血を生みだすもとであり、生命力の根源である。だから成長・発育・生殖などにも影響するわけだ。
この精をしまっているのが腎で、精が腎によって活性化されたものが元気(原気)である。元気で活動的に生きていくうえで腎という臓は欠くことができない存在だといえる。
・全身の陰陽のバランスを調える
すべての臓には陰のはたらきと陽のはたらきがある。このなかでもとくに腎の陰陽(これを腎陰と腎陽という)は、からだ全体の陰陽のバランスに対して影響が強いのだ。
つまり腎がよい状態にあれば陰陽のバランスがとれるということ。さらにわかりやすくいうと、からだがほてる、からだが冷えるというのは基本的にこの陰陽のバランスのくずれであることが多いということは前述したとおり。そういう意味でも、腎は大切な臓なのだ。
1-3.水をコントロール
・水の体内での代謝
第9回で学んだ水の代謝(右図)のなかで、全身をめぐった水は腎に運ばれ、不要なものは膀胱をへて尿として排泄され、一部は再利用するためふたたび肺へ運ばれた。
つまり腎は全身の水の流れをコントロールしているというわけ。これがうまくいかないと、不要な水がからだに溜まって浮腫んだり、尿の問題がおこったりするのだ。
1-4.深い呼吸
・納気という深い呼吸
腎は深い呼吸にもかかわっている。これを専門的には“納気”とよぶ。呼吸というものは、さまざまな健康法で重視されるが、東洋の考え方のなかにはこのように肺以外でからだの深いところに気を取り込むという呼吸法が存在する。その場合、これを担うのは腎だ。
2.腎のグループ
腎は単に腎のはたらきという意味ではないのは前に書いたとおり。腎に関連するからだのいろいろな部位、あるいは精神をも含めた系統を意味するグループ名のことだ。
腎のグループで重要なものは骨・髄・髪・耳・二陰・唾・志・恐・驚・鹹などである。それではひとつずつみてみよう。
・骨・髄・髪
腎にしまわれている精は髄をつくり、髄は骨のなかにあって骨に栄養をあたえている。だから腎が正常なら骨が丈夫なのだ。ちなみに歯は骨余といって骨の余ったものだから、同様に腎とつながりが強い。
髪は腎の状態を反映するからだの部位で、髪の色・ツヤ・量などをみれば腎の状態がわかるわけだ。前述したように腎は老化とも深くかかわっているので、歳をとると髪にツヤがなくなり、白髪や抜け毛などが増える。
・耳
「腎は耳に開竅(カイキョウ)する」といわれ、腎は耳と通じていると考える。だから歳をとって腎精が不足してくると耳の聞こえが悪くなるというわけ。
・二陰
二陰とは前陰と後陰、尿道口と肛門のこと。大小便は腎と関係があるのだ。
・唾
唾は口の中の津液で歯のあいだから湧き出てくるので“腎の液”。気功や導引という古代の体操法では、唾を飲み込むことで腎の精を養うという養生法がある。ということは、唾を吐いたら命が縮む?
・志
志とは思考や記憶を保存するこころのことで、「根気よく続ける」という動作にかかわる。腎の状態が悪くなると、記憶が混濁したり忘れっぽくなったりするし、根気が続かなくなる。
・恐・驚
腎とかかわりが深い感情が恐れと驚きだ。腎の状態がよくないと、気が下る。すると“恐”という感情がおこりやすくなって、ちょっとしたことで怖がったりビクビクしたりする。
また、気が乱れると“驚”という感情がおこりやすくなり、驚きやすくなる。
気と感情との関係はオモシロい。
・鹹(カン)
鹹味とは塩味のこと。鹹味には、下す・軟らかくする・散らすなどのはたらきがある。腎と非常に関係が深く、適度に摂取することによって腎および膀胱のはたらきを助けてくれる。むやみに塩を控えるのは東洋医学的にはあまりよいこととは言えない。
3.腎の病
腎という臓、あるいは腎のグループに関連しておこる病について説明する。
3-1.精が不足すると…
・精が不足すると…
成長・発育・生殖に影響がでて、結果として成長が遅れたり、不妊になったり、老化が早まったりする。
具体的な症状としては、足腰がだるい、骨が弱い、歯が抜ける、耳が聞こにくい、根気が続かない、物忘れが多いなど。基本的には老化現象ということになる。
腰という字は肉づきに要と書くが、腎と関係が深い部位だ。腎の精が不足すると腰
に力がはいらなかったり、だるくなったり、あるいは鈍い痛みが慢性的にでたりする。「腰は腎の府」といわれる。
3-2.水のコントロールの不調
・水の代謝がわるくなると・・・
全身の水の代謝がわるくなると、からだに浮腫みがでたり、頻尿あるいは遺尿(溺もれ)、尿量の減少などがおこる。下痢などがおこる場合もある。
今回で五臓をすべて学び終わったので、内景図で臓腑全体をみてみよう。
第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1」
第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2」
第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3」
第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!」
第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1」
第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2」
第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3」
第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1」
第11回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2」
第12回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その3」
第13回「東洋医学エピソードシリーズ1「鍼灸がこんなことに効くって知ってました?」」
第14回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その4」
第15回「東洋医学エピソードシリーズ2「肺癌末期の女性患者について」」
第16回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その5」
第17回「東洋医学エピソードシリーズ3「サンフランのエイズ患者」」
次回の「東洋医学エピソードシリーズ4「妻の胃の痛み」」。
3/21ころに公開予定。