前回の労逸つまり過労と安逸(働かな過ぎること)による病気の原因に続く今回は、房事過多です。
面白いことに、東洋医学では性生活に節制がないことを病気の原因のひとつにあげているわけです。
これについて少し説明していきましょう。
目次
内因:生活要因や精神的要因などが病気の原因となる場合
A. 飲食不節:不適切な食事や飲水
B. 労逸:労倦と安逸のこと
C. 房事過多:性生活に節制がない
—————————————- 以下次回以降
D. 七情の失調:突然・強い・長期の精神的な刺激
C. 房事過多
房事過多とは、房事=セックスが多過ぎるということです。
まずは房事についてみていきましょう。
1)房事とは?
中国には古来、養生術がいろいろとありました。
養生とはつまり生を養うこと。
自然と調和することでカラダを良い状態に調え、ひいては健康増進、病気の自然治癒を促すことなどが目的の行為のことです。
その具体的な方法として、ひとつは食養生。
食べたものは気血水と精というカラダをつくるもとになるという考え方から、各人に合った食事の取り方によって健康になることを目指すというものです。
それから気功などの動作をともなう健康法。
カラダを動かすことで気血をめぐらし、心身を健康な状態にすることが目的です。
これには呼吸法も重要な要素になります。
そして性養生です。
中国では古来から、性生活に関連して健康を損なわない工夫がされてきました。
それを房中術といいます。
「房」は寝室のことで、性生活の技法という意味です。
2)房中術の要点
房中術に興味を持たれた方が多いと思われますので(笑)、少し説明しておきましょう。
その前に言い訳しておきますが、私自身は決してこの術をマスターしてはおりませんが、
以前に学校で教えていた時に、卒論の指導で「房中術について」を担当したことがあるので、少しは詳しい方かもしれません。
古くは『漢書』芸文志の方技略というところに次のような文があり、これは房中術の要点とされています。
楽而有節、則和平壽考。
及迷者弗顧、以生疾而隕性命。
(楽しみに節度があることが、和平長寿の秘訣である。おぼれて顧みなくなれば、疾いを生じ性命を損なう。)
また房中術にはさまざまな性行為の技法が含まれます。
例えば日本最古の医学書である丹波康頼の『医心方』では、房内編として一巻を当てています。
そこには次のような内容が含まれています。
・男性の陽、女性の陰の養い方
・男女の交わりの極意
・ことに臨むに当たっての心得や呼吸法
・女性の官能の高まりをとらえる方法
・様々な交接のスタイル(体位)
・子供が欲しい場合の禁忌
・良い女の条件
非常に微に入り細をうがっています。
本来の房中術は、性という人間本来の行為に対して、溺れることなく節制を保ち、適度な楽しみとして無用に精(これは精液のことではなく気血のもとになるものという意味)を漏らさないように交わることが大切だと説かれています。
つまり、精の浪費は気の消耗につながり、健康を損ねる原因にもなるということです。
3)房事過多だとどうなるのか?
それでは房事つまり性生活に節度がないとどうなるのかを見ていきましょう。
房事過多=精の浪費と書きましたが、精は気血のもとになる大切なもので腎という臓にしまわれています。
つまり、精が浪費されるということは腎精を消耗するということになります。
簡単に言うと腎が弱るわけです。
腎という臓の働きについては以前に書きましたので、そちらを参照してください。
腎は髪、耳、骨などのカラダの器官と関係が深い臓でした。
さらにエイジングつまり老化にも関わる重要な臓でもあります。
ですので症状としては足腰の弱り、眩暈、耳鳴り、老眼、難聴、白髪・脱毛など、いわゆる老化の早まりに伴う症状などが起こるわけです。
有名な貝原益軒の『養生訓』のなかには、
わかき時より色慾をつつしみ、精気を惜むべし。
精気を多くつひやせば、下部の気よはくなり、元気の根本たへて必ず命短かし。
などと記され、精気を浪費しては命が短くなると戒められています。
まあ現代に当てはめて考えてみると、どちらかというとセックスレスの方が問題になるのかもしれませんね。
これについて東洋医学的に考えてみるのもとても面白いのですが、後の回に譲ることにしましょう。