
東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その2

前回は臓腑についての概略を説明した。今回からは個々の臓腑についてくわしくみていく。
五臓の第1回目は“肝”について三つに分けて説明する。
一つめは「はたらき」。肝がどのような臓で、どんなことをしているのかについて。
二つめは「肝のグループ」。肝という臓と関連が深いからだの部分や精神について。
三つめは「病」。肝に関連して生じる病について。少し難しくなるが、がんばってついてきてほしい。
目次 |
1.肝のはたらき |
1-1.肝ってどんな臓? |
1-2.気の流れをうながす |
1-3.血をたくわえる |
2.肝のグループ |
3.肝の病 |
3-1.ストレスに弱い |
3-2.血の問題 |
1.肝のはたらき
それでは肝のはたらきについてみていこう。
東洋医学では肝という臓は臓器としての肝臓のことだけをいっているのではない。肝という臓のはたらきやそれと系統的につながっている、あるいは関連して影響がでるからだのいろいろな器官、あるいは精神なども含めた考え方全体を指している言葉なのだ。簡単にいうと“肝のグループ”ということになる。ここではそのうち肝のはたらきについて説明する。
1-1.肝ってどんな臓?
まず肝という臓はどんな臓なのかについてみてみよう。
・五行では“木”に属する
肝は五行では木に属する。木という行の性格を持っている臓ということになるわけだ。これはじつは大変重要なことだ。木とはどのような性質の行だったか第5回の内容を思い出してみよう。
木とは、草木が成長するように上へ、外へと伸びていくような性質のものだった。季節では春。ものごとのはじまり、芽生えの季節だ。だから肝もそういう性質をもった臓なのだ。
・重さやかたち
重さやかたちについて約二千年前に書かれたとされる『難経』(四十二難)という古典のなかに次のように書かれている。
「肝は重四斤四両,左三葉,右四葉,凡て七葉,魂を蔵するを主(ツカサド)る」(重さが四斤四両、左が三葉、右が四葉で合計七葉、魂をしまっている)。
一斤は十六両で、当時の一斤は約258gだから肝臓の重さは約1100gとなる。現代では体重の約5分の1、男性で約1.5kg、女性で約1.3kgとされるのとほぼ同じになる。このことからも東洋医学ではかなり正確に解剖をしていたことがわかる。「魂を蔵する」ということについては、あとで説明する。
1-2.気の流れをよくする
・気の流れをよくする
肝には気の流れをよくするはたらきがある。専門的にはこれを“疏泄(ソセツ)”という。第7回でも学んだように、気は流れているのがいい状態だから、肝が病んで流れが滞ると病を生じる。
方向性としては“上”と“外”になる。上昇と発散といった方がわかりやすいかもしれない。つまり、気を上昇させたり発散させるということ。さらに気をからだのすみずみまで行きわたらせるという役割もある。だから肝の状態はからだ全体に影響するのだ。ちなみに気の流れを悪くする原因としては「ストレス」があげられる。肝はストレスの影響を受けやすい臓ともいえる。
1-3.血をたくわえる
・血をたくわえる
東洋医学では肝は血をたくわえると考える。いつもためておくという意味ではなく、からだ全体への血の供給量を調節しているといったような意味だ。
昼間は血の量を調節して心へ送り、心はそれを全身に送りだすのだ。夜はからだをあまり動かす必要がないので、血は肝にもどってきて肝のなかにためられる。
2.肝のグループ
はじめにも書いたが、肝というのは単に肝臓のはたらきという意味ではない。肝に関連するからだのいろいろな部位、あるいは精神をも含めた系統を意味するグループ名なのだ。
肝のグループで重要なものは目・涙・筋・爪・魂・怒・酸などである。これらを知ることが五臓のキモになる。それではひとつずつみてみよう。
・目
目は肝の血によって栄養を受けている。だから肝が病むと目に栄養が行き届かなくなり、目の乾き、目のかすみ、目の充血などがおこるというわけ。
・涙
涙は目を潤して保護している。肝の状態に関連してこの涙の分泌も左右されるので、肝の状態次第で目が乾いたり、逆に涙が出やすくなったりという症状がおこるのだ。
・筋
筋とは腱・靱帯・筋膜・筋組織などのことを指している。これも肝と非常につながりが強いからだの部位だ。肝の状態が悪くなると、筋がしびれたり、痙攣したり、つったりする。
・爪
爪は別名「筋余」という。つまり筋が余ったものというわけ。同じようないい方では「髪は血余」というのが以前CMで流れたことがある。髪の毛は血の余りという意味。爪は筋余なので、肝の状態を反映しやすく、肝の状態が悪くなると爪がデコボコになったり、もろくなったり、爪の色が白っぽくなったりするのだ。
・魂
皆さんは「肝っ玉」という言葉を知っていると思うが、これは「肝っ魂」とも書く。この場合の魂と肝は、まさにここで言いたいことだ。肝と魂との関連が深いことを示している。
東洋医学では精神活動や感情など(つまりこころの動きやその反映として外に現れる情動など)も五臓と深いつながりがあると考える。ここがオモシロイところでもあるが、ちょっと難しい。これについては別に機会をもうけてわかりやすく説明するつもりである。
ここでの魂とは、無意識的・本能的活動を支配しているもので、人格に深くかかわるいわゆる「たましい」のことである。理性の支配が薄れる睡眠中や高熱の時、あるいは酩酊時などに本能的な欲望があらわれるのはこのためだと考える。この魂が弱ると自信がなくなるし、ダメになると狂気が現われたり人格が崩壊したりするのだ。
・怒
肝と関係がある感情としては“怒”がある。わかりやすく言うと、肝の状態が亢進したときに出てくる感情だ。なんとなくイライラしたり怒りっぽくなっているときは、肝が病んでいたり気の流れが悪くなっているというわけだ。
逆に肝の状態が低下したときに現れるのが“抑うつ感”や“気分の落ち込み”などだ。うつ病は、東洋医学的に診るとこの肝の問題であることが多い。ちなみに鍼灸で「うつ」は結構治る。
・酸
東洋医学の考え方を使った食へのアプローチに“薬膳”がある。薬膳でもやはり五行を使うが、この肝と同じ五行に属する味が“酸”だ。酸っぱい味には、ものごとを収めたり固めたりするはたらきがある。汗や尿、便などが出過ぎるのをとめたり(つまり寝汗や頻尿、寝汗などによい)、筋肉などを引き締めたりするということだ。
だから肝の状態が悪い時には酸っぱいものを食べるのがイイし、逆に肝の状態が悪い時には酸っぱいものが食べたくなったりするとも考えられる。
3.肝の病
最後に、肝に関連しておこる病について説明する。
3-1.ストレスに弱い
・強いストレスを受けると・・・
肝はストレスに弱い臓だということができる。適度なストレスは必要だといわれるが、それが強くなったり長引いたりするとからだが悲鳴をあげる。東洋医学的にその影響をもっとも受ける臓が肝なのだ。
その結果として、気の流れが悪くなる。いわゆる“気滞”の状態だ。気が流れなくなると血も流れが悪くなりがちになる。また、イライラしたり怒りっぽくなる。これは肝の状態が過度に亢進している証拠だ。すると肝と関連する目、筋、爪などにサインが現れる。あらわれる具体的な症状については上述した。それを見逃さないで軽いうちにケアする必要があるのだ。
3-2.血の問題
・血をためることがうまくいかなくなると・・・
血を全身にバランスよく配分するのも肝の役目だった。これがうまくいかなくなると、血による栄養が行き届かなくなるところがでてくるわけだ。それが現れやすい部位がいわゆる肝のグループ、つまり目や筋や爪などだ。
女性だと生理が遅れがちになったりするし、また皮膚や髪の毛のツヤがなくなったりもする。そういうことが肝の担当している血の問題として具体的に現れてくるのだ。
第1回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その1」
第2回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その2」
第3回「東洋医学を正しく理解するために必ず押さえておくべきポイント その3」
第6回「ほんとうの自分の干支を知っているひとは意外に少ない?!」
第7回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その1」
第8回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その2」
第9回「東洋医学を正しく理解するために絶対に知っておくべき気血水のはなし その3」
第10回「東洋医学を理解するためのキモ、五臓六腑 その1」