「生卵を食べると髪が薄くなるらしい」、そんな話を聞いたことがあるでしょうか?
実はこれ、全くのデマでもなければ、すぐに薄毛になるという極端な話でもありません。
ですが、分子栄養学・機能性医学の視点で見ていくと、「なぜそう言われるのか」という明確な生化学的な理由があります。
今日はその仕組みを、できるだけ分かりやすくお伝えします。
生卵の卵白に含まれる“アビジン”とは?
まず押さえておきたいポイントは、生卵の卵白に含まれる「アビジン(Avidin)」というタンパク質の性質です。
アビジンの特徴は次の3つ。
- ビオチン(ビタミンB7)と異常なほど強く結合する
- 胃酸や消化酵素でも分解されにくい
- ビオチンと結合したまま吸収されず排泄される
ビオチンは髪の健康を支えるビタミンの中でも特に重要ですが、生卵を食べるとアビジンがビオチンを“奪い取って”しまうんです。
つまり、生卵をたくさん・長期間食べ続けるほど、体はビオチン不足に陥りやすくなるというわけです。
ビオチンが不足すると、なぜ髪に悪いのか?
ビオチンは、多くの代謝酵素に欠かせない“補因子”として働いています。
特に重要なのは次の4つの酵素。
- アセチルCoAカルボキシラーゼ
- プロピオニルCoAカルボキシラーゼ
- ピルビン酸カルボキシラーゼ
- メチルクロトニルCoAカルボキシラーゼ
難しい名前が並びますが、役割はとてもシンプルです。
「毛根のエネルギー代謝」と「ケラチンの材料作り」を支える酵素たちです。
つまりビオチンが不足すると、次のようなことが起こります。
① 毛根の細胞分裂が落ちる
髪の成長には大量のエネルギーが必要。 ビオチンが不足すると毛母細胞の働きが鈍くなり、髪が細くなり、成長スピードが低下します。
② 皮脂の質が悪くなる
脂質代謝がうまくいかず、酸化しやすい皮脂が増えることで、頭皮が炎症状態になりやすくなります。
③ ミトコンドリアのエネルギー産生が下がる
髪の生成にはATPが欠かせませんが、これも低下し、結果として抜け毛が増え、薄毛につながる可能性が出てきます。
生卵を食べるときに気をつけたいポイント
誤解しないでいただきたいのは、「普通に生卵を食べるだけで薄毛になる」という話ではないということ。
問題になるのは次のようなケースです。
- 生卵を毎日大量に食べる
- 高タンパク食として卵白を大量摂取している
- 腸内環境が悪くビオチン合成能が低い
- 脂質代謝が悪く、髪の材料代謝が不安定
- ストレスや甲状腺低下で毛根の代謝が落ちている
つまり、体質的に髪が弱っている人がアビジン × ビオチン不足 の状況に陥ると、その影響が髪に出ることがある、ということです。
なぜ加熱した卵は安全なのか?
アビジンは 70〜85℃で変性し、ビオチンへの結合力を失います。
つまり、
生卵 → ビオチンを奪う
加熱卵 → ビオチンを奪わない
という違いが生まれます。
また、卵黄自体にはビオチンが豊富に含まれているため、加熱した卵はむしろビオチンの供給源になります。
まとめ ― 生卵と薄毛の関係は「アビジンによるビオチン泥棒」
生卵の卵白に含まれるアビジンは、髪の健康に必須のビオチンを結合してしまい、吸収を阻害します。
その結果、
- 毛根のエネルギー代謝低下
- ケラチン産生の低下
- 頭皮環境の悪化
などを引き起こすことで、薄毛のリスクを高める可能性があるというのが分子栄養学的な結論です。
ただし、普通の量であれば心配は不要。
生卵を習慣的に大量に摂る場合、または髪や皮膚にトラブルがある場合は、一度食習慣を見直してみる価値があります。
今回はこの辺で。

