動物性脂肪の制限は正しいのか?

東洋医学×分子栄養学

油が身体に与える影響はとても大きいです。
これは分子栄養学を勉強するようになってすごく実感したことのひとつです。

その理由は何かというと、油は自然界にそのままの状態では存在しない濃縮されたものなので、サプリのようにダイレクトに人体に作用を及ぼすからです。

ところで、あなたは「」と「」の違いをご存知ですか?

一般的な解釈では、常温で液体のものは「油」、常温で固体のものは「脂」と呼び、総称して「油脂」といいます。 具体的には、植物油は「油」、動物性の脂肪(バター、ラードなど)は「脂」に分類されます。

これは専門的にいうと不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の違いということになります。
僕らはさらに細かく分けるんですけど、油を分類することでカラダへの作用の違いがハッキリするので、とても面白いんですよ!

ひとことでいうと、「油の種類を意識して摂ることが健康になるためにはとても大事だ」ということになります。

今回はそういった油の種類の中でも心血管疾患のリスクを上げるので制限したほうが良いとされている飽和脂肪酸(動物性脂肪)について、今年の4月に発表された日本人の論文を参考にして書いていきます。

結論からいうと、動物性の脂肪である飽和脂肪酸は制限しなくても良いということみたいです。

飽和脂肪酸ってなに?

そもそものお話から始めましょう。

油脂の中身のほとんどは中性脂肪(または単に脂肪)で、グリセロールと脂肪酸が結びついた構造をしていて、実際にはそのほとんどが脂肪酸でできています。

脂肪酸にはいろいろな種類があって、通常はひと種類ではなく、いろいろな脂肪酸が混ざって油を構成しています。
ただし、どの種類の脂肪酸がもっとも多く含まれているかで、その油の性質がある程度決まってきます。

具体的な話をすると、サラダ油の代表である大豆油とかコーン油にはリノール酸(という種類の脂肪酸)がもっとも多く含まれていて、このリノール酸は不飽和脂肪酸のなかの多価不飽和脂肪酸で、これはオメガ6系の脂肪酸です。

ヒトが体内ではつくれない必須脂肪酸でもあるので、食事などで摂るしかいないんですけど、ほとんどの人は摂り過ぎていて、それで炎症を増長させている可能性があるんです。

バターやラードなどの動物性脂肪に多く含まれているのがパルミチン酸などに代表される飽和脂肪酸
これが今回のテーマですね。

油を摂るときに注意するべきことを書いておくと、調理などに使ういわゆる「油」は見える油で、これは摂取している油の20%でしかなくて、それ以外の80%は食品などに含まれている見えない油だということです。

この辺りのことについては、以前に「油はとっても大事だよ」というタイトルで詳しく書いているので、こちらも参考にしてください。

注目の論文

さて、ここからが本題です。 今回紹介する論文は、今年の3月に発表された日本人による論文(JMA J. 2025;8(2):395-407)です。

筆頭執筆者は、北里大学北里研究所病院の糖尿病センター長の山田悟先生です。
著書もいろいろと出されていて、基本的には糖質制限(ロカボ)の提唱者で、最新刊は「脂質起動」(副題は、脂肪が燃える体は太らない、疲れない)で、油に関するなかなか興味深い内容の本です。

論文の方の主旨としては、いままで常識とされてきた飽和脂肪酸の摂取が多いと心血管疾患による死亡リスクが上がるということはどうやら言えない可能性が高いという内容になっています。

言い換えると、「動物性脂肪は悪である」というのは間違いだったということになります。

エネルギー不足の傾向にある患者さんは結構多いんですけど、これは脂質を摂り過ぎてるというより、糖質の摂り過ぎが原因だと考えられます。

油を摂るから太るのではなく糖質を摂るから太るという意味で、甘いものや血糖値を上げやすいものは控えめにするのが健康のためには大事だと思います。

でも糖質+脂質の組み合わせは太ります
ラーメン、美味しいですよね(笑)

現時点での結論

動物性脂肪の摂取については、例えば厚生労働省による『日本人の食事摂取基準』(2025版)では、「飽和脂肪酸摂取量をどの程度に留めるのが好ましいかを決める科学的根拠は十分ではない」としつつも、「最近の調査で得られた摂取量(中央値)を基に活用の利便性を考慮し、目標量(上限)を7%エネルギーとした」と書かれていて、飽和脂肪酸の上限を設定することで「制限すべき」と暗に示しているように受け取れます。

ということで、一般的には「動物性脂肪の摂取は動脈硬化や心筋梗塞の原因になるので控えるようにしましょう」ということになっていました。

ですけどちょっと調べてみると、2020年のPURE studyという国際的コホート研究では、飽和脂肪酸制限の有効性については否定的であった(BMJ Open Diab Res Care 2020; 8: e000826)ことを理由に、米国心臓学会の機関誌では「これまで通りの飽和脂肪酸制限の推奨を継続することを支持するエビデンスがない」ことが明記されています(J Am Coll Cardiol 2020; 76: 844-857)。

日本では以前(現在も?)、植物性のものがカラダに良いという風潮が一般的でしたので、いまでもその延長としてサラダ油がカラダに良くて動物性の脂肪である飽和脂肪酸はカラダに悪いと思われがちなのかもしれません。

栄養学的にみても、飽和脂肪酸は酸化しにくい油なので、油の酸化によって生じる毒の心配は少ない油だということができます。
これは特に加熱調理(熱による油の酸化は健康のためには避けたいです)に向いているという意味です。

ですから、現時点での結論としては、動物性脂肪である飽和脂肪酸は避ける必要はないということになります。

はじめに書いたように、油はダイレクトにカラダに作用するので、どういう油を選ぶかでカラダが目に見えて変わります。
脳細胞や神経、細胞膜などの材料のメインは脂質です。

是非とも健康のために悪い油を控えて、良い油を積極的に摂りましょう!
今回はこの辺で。

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