血液検査の数値、なぜ人によって”同じ正常値”でも体調が違うのか?

東洋医学×分子栄養学

「基準値内」という言葉への、静かな違和感

健康診断の結果表に並ぶ「A」の文字。あるいは「基準値内」という表記。

それを見て、本来なら安心するはずです。
でも、結果表を見返しながら、心のどこかで小さな違和感を覚えたことはありませんか。

「数値上は問題ないと言われたのに、なぜこんなに体が重いんだろう」
「同じ”正常”のはずの友人と、なぜこんなに体調が違うんだろう」

同じ「基準値内」という結果でも、人によって体調がまったく違う。これは、決して気のせいではありません。

今日は、その理由を少し詳しく見ていきたいと思います。

「基準値」は、実はかなり幅が広い

まず知っておきたいのは、健康診断の「基準値」がどのように決められているかということです。

基準値は、多くの場合、健康な人たちの検査データを集めて、そのうち大多数(統計的にはおよそ95%)が収まる範囲として設定されています。

つまり「病気の兆候がない集団の中で、一般的に見られる幅」であって、「一人ひとりにとって最も調子よく機能する値」を示しているわけではありません。

たとえば、貯蔵鉄の状態を示す「フェリチン」という項目。
女性の基準範囲は、検査機関にもよりますが、おおよそ5〜150ng/mlと定められていることが多く、非常に幅が広いのが特徴です。

同じ「基準値内」でも、20ng/mlの人と100ng/mlの人とでは、体の中で起きていることは大きく異なります。
それでも検査結果の表には、どちらも同じように「A」と記載されるのです。

東洋医学の視点——同じ「正常」でも、体質によって表れ方が違う

東洋医学では、同じような数値や似た症状であっても、その人がもともと持っている体質——気血水のどこに偏りが出やすいか——によって、体の感じ方や不調の表れ方が違うと考えます。

たとえば、同じように「基準値内だけれど低め」の状態であっても、もともと気(エネルギー)が不足しやすい体質の人は、強い倦怠感や息切れとして表れやすい傾向があります。

一方、血(体を潤し、栄養を巡らせる働き)が不足しやすい体質の人は、めまいや立ちくらみ、髪や肌の乾燥として表れやすいことがあります。

同じひとつの数値を見ても、そこにどんな体質が重なっているかによって、体感としての不調はまったく違う顔をして現れるのです。

分子栄養学の視点——「基準値内」と「最適値」は違う

分子栄養学では、「基準値内かどうか」とは別に、「その人が最も調子よく機能できる値」という考え方を大切にします。
これを「最適値」とか「理想値」と呼びます。

基準値は「病気の治療が必要かどうか」を判断するための線引きです。
一方、最適値は「体が快適に働き続けるために、どのくらいの余力が必要か」という、もう一段階細かい目盛りです。

先ほどのフェリチンを例にすると、基準値としては5ng/mlでも150ng/mlでも「正常」ですが、分子栄養学の観点では、疲労感なく過ごせる目安として、女性であればおおよそ50ng/ml前後以上が望ましいとされることが多くあります。

つまり、フェリチンが20ng/mlの人は、検査結果としては「A」であっても、分子栄養学的にはエネルギー産生に必要な貯蔵鉄が十分とは言えない状態にある、ということが起こり得るのです。

これは、フェリチンに限った話ではありません。
ビタミンDやコルチゾールの日内リズムなど、基準値内であっても「低め」と「高め」とで体感が大きく異なる指標は、他にも数多くあります。

二つを重ねると見えてくること——DさんとEさんの場合

ここで、同じ検査項目で「基準値内」だったお二人のケースをご紹介します。

  • Dさん(40代)は、フェリチンが18ng/ml。
    検査結果は「A」でした。もともと気血ともに不足しやすい体質で、慢性的な強い疲労感、朝の起きづらさ、立ちくらみを訴えていました。
    分子栄養学的に見ても最適値には届いておらず、東洋医学的にも「気血両虚」の状態と重なり、症状の全体像がはっきりと説明できました。
  • Eさん(40代)は、フェリチンが22ng/mlと、Dさんとほぼ同じ水準でした。
    けれどEさんの主な訴えは、頭が重い感じと肩こり、そして午後になると強くなる眠気でした。
    東洋医学的に見ると、Eさんはもともと「巡りの滞り」が出やすい体質で、フェリチンの低さそのものよりも、巡りの滞りが症状の主な要因になっていると考えられました。

同じ「フェリチン20ng/ml前後、基準値内」という結果でも、DさんとEさんでは、体が発しているサインの意味がまったく違ったのです。
もし数値だけを見て「二人とも同程度の対応でよい」と判断していたら、それぞれに合った対処にはたどり着けなかったでしょう。

まとめ——数値は「答え」ではなく「手がかり」

血液検査の数値は、それ単体では「答え」にはなりません。
むしろ、その人の体質や生活背景と重ね合わせて初めて意味を持つ、「手がかり」のようなものです。

「基準値内だから大丈夫」「基準値内なのにおかしい」と、数値だけを見て一喜一憂するのではなく、その数値が自分にとってどんな意味を持つのかを、丁寧に読み解いていく。
そのプロセスこそが、これまでの記事で書いてきた内容に共通している考え方です。

次回以降も、具体的なケースを通して、この読み解き方をさらにお伝えしていきたいと思います。

もう一歩、患者さんの力になりたい方のために

臨床の現場でも、「検査値は基準内なのに、症状はかなり強い」という患者さんに出会うことは少なくないと思います。そんなとき、数値だけを根拠にすると、「検査上は問題ない」という説明で終わってしまいがちです。

けれど、東洋医学の体質評価と分子栄養学の最適値という視点を重ねることで、同じ「基準値内」という結果の中にある個人差を、より具体的に読み解けるようになります。

これは、患者さん自身が「自分の体には、ちゃんと理由があった」と納得できる説明につながる視点でもあります。

現在準備を進めている中医統合ケアアカデミーでは、こうした血液データの読み解き方についても体系的に扱っていく予定です。
詳細は追ってお知らせしますので、ご関心のある方はぜひ楽しみにお待ちください。

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