更年期外来でちゃんと診てもらったのに、なぜ変わらなかったのか

東洋医学×分子栄養学

「ちゃんと診てもらったのに」という、もどかしさ

更年期外来を受診して、医師が丁寧に話を聞いてくれた。検査もしてもらったし、ホルモン値についても分かりやすく説明してもらえた。対応に不満があったわけではない。

それなのに、症状そのものはあまり変わらなかった——。
そんなもどかしさを感じたことはありませんか。

「先生の説明には納得できた。でも、結局この症状とはいつまで付き合えばいいんだろう」。
そんな行き場のない気持ちを抱えたまま、日々を過ごしている方は少なくないと思います。

今日は、そんな時期を過ごしていたCさん(仮名・50代)のケースを通して、標準的な医療の説明の”その先”に、東洋医学と分子栄養学がどう手を伸ばせるのかをお伝えしたいと思います。

Cさんの場合——「毎晩3〜4回目が覚める」

Cさん(50代・パート勤務)が更年期外来を受診したのは、次のような状態が半年以上続いていたときでした。

  • 夜中に3〜4回、突然の発汗とほてりで目が覚める
  • 朝起きても熟睡感がなく、日中も集中力が続かない
  • 週に2〜3回、些細なことで家族に強く当たってしまい、そのたびに自己嫌悪に陥る
  • 電車の中など人前でも、前触れなく顔や首がかっと熱くなることがある

担当の医師はとても丁寧な方でした。
「この時期はホルモンバランスが大きく変化するので、ほてりやのぼせ、気分の波が出やすくなります」と、症状のメカニズムを分かりやすく説明してくれました。
血液検査の結果も見せながら、「この年代としては典型的な範囲ですね」と伝えてくれたそうです。

低用量のホルモン補充療法を提案され、3ヶ月ほど試しました。
夜間のほてりによる中途覚醒は3〜4回から1〜2回程度に減り、一定の効果は感じられたといいます。

けれど、日中の倦怠感や集中力の続かなさ、家族への苛立ちやすさについては、大きな変化を感じられませんでした。

「夜は少し楽になったんです。でも、日中のイライラや疲れやすさは、そのままだったんです」

同じ年代の友人と話しても、「みんな更年期はこんなものだよ」と言われる。
自分の症状の重さや、なぜホルモン療法で改善する部分としない部分があるのか、その理由までは分からないまま、モヤモヤした状態が続いていました。

東洋医学の視点——同じ「更年期」でも、体質によって表れ方が違う

東洋医学では、更年期を体に蓄えられた根源的な力(腎)が、生理的に変化していく自然な節目として捉えます。これは、その年代の誰もが経験する、体にとって自然な過程のひとつです。

婦人科の診断が「この年代に共通する変化」として症状を説明するのに対し、東洋医学がより重視するのは、その変化が、なぜこの人にはこのように表れるのかという個人差の部分です。

この変化の過程で、体を潤し、心を落ち着かせる働きを持つ「血」が不足しやすくなることがあります。
血が不足すると、体を内側から冷ますような働きが弱まり、ほてりやのぼせとして表れやすくなります。
また、心を静かに支える力も弱まりやすいため、些細なことで感情が揺れやすくなることもあります。

さらに、血の不足は「巡りの滞り」を伴うことも多く、この場合は日中の倦怠感や頭の重さ、集中力の続かなさとして表れやすいとされています。

Cさんの場合、ホルモン療法が効いたのは主に「ほてり」の部分でした。
一方、日中の倦怠感やイライラが残っていたのは、東洋医学的に見ると「血の不足」と「巡りの滞り」がまだ十分に整っていなかったためと考えられました。

分子栄養学の視点——同じホルモン値でも、体の対応力には差がある

ホルモンバランスが変化していくこと自体は、年代相応の自然な過程です。
けれど、その変化に体がどれだけスムーズに対応できるかは、栄養状態によって大きく左右されます。

Cさんの血液データを分子栄養学の視点で見直すと、いくつか気になる点がありました。

フェリチン(貯蔵鉄)が15ng/ml前後と、基準値の下限は超えているものの、余力はほとんどない状態でした。鉄は日中のエネルギー産生や集中力の維持に深く関わるため、この値の低さは、日中の倦怠感や集中力の続かなさと関係している可能性がありました。

また、ビタミンB群の消耗を示唆する数値も見られました。
ビタミンB群は神経伝達物質の合成に関わっており、不足すると気分の波が大きくなりやすい傾向があります。
家族への苛立ちやすさには、この部分が関わっていると考えられました。

ホルモン補充療法は、ホルモンバランスの変化そのものに直接働きかける治療です。
夜間のほてりが改善したのは、まさにこの部分への効果だと考えられます。
一方で、鉄やビタミンB群の不足は、ホルモン療法の対象範囲の外にあるため、そこは変化しないまま残っていたのです。

Cさんに起きた変化——3ヶ月で何が変わったか

Cさんには、ホルモン療法を継続してもらいながら、東洋医学の視点(血を補い、巡りを整える食材や生活習慣の見直し)と、分子栄養学の視点(鉄とビタミンB群を補う食事内容の調整)を組み合わせて、日々の食事と生活習慣を見直してもらいました。

3ヶ月後の変化は、次のようなものでした。

  • 夜間の中途覚醒:1〜2回(変化なし、ホルモン療法の効果を維持)
  • 日中の倦怠感:「ソファに沈み込むような疲れ」から「夕方に軽い眠気を感じる程度」に軽減
  • 家族への苛立ち:週2〜3回あったものが、週1回未満に減少
  • 集中力:午後の会議で発言できる余裕が出てきた

すべての症状が完全になくなったわけではありません。
特に夜間のほてりについては、ホルモン療法による改善以上の変化は見られませんでした。
けれど、これまで手つかずだった日中の倦怠感やイライラといった部分に、明確な変化が見られたのです。

Cさんはこのときのことを、こう振り返っています。

「”典型的な症状です”と言われて終わっていたら、たぶんこのまま我慢していたと思います。自分の場合は何が足りていないのかが分かったことで、初めて対処のしようがあると思えました」

まとめ——「典型的な症状」の中にある、自分だけの理由

更年期の症状が「この年代では典型的」であることと、「なぜ自分にはこれほど強く表れるのか」という個人差は、実は別の話です。

標準的な医療の説明や治療は、多くの人に共通する変化に的確に働きかけてくれます。
それはとても大切なことです。けれど、そのアプローチが届く範囲と、届かない範囲があるのもまた事実です。

もしいま、治療を受けているのに一部の症状だけが残り続けているとしたら。
それは、まだ光が当たっていない部分が、体のどこかに残っているだけなのかもしれません。

もう一歩、患者さんの力になりたい方のために

更年期世代の患者さんは、臨床の現場でも数多く出会う方々だと思います。
標準的な治療で改善する症状がある一方、それでも残ってしまう症状に対して、次の一手を提案できずもどかしさを感じたことがある臨床家の方も、少なくないのではないでしょうか。

東洋医学の「なぜこの変化が、この人にはこう表れるのか」という視点と、分子栄養学の「体がその変化にどれだけ対応できているか」という視点。
この二つを重ねて診ることで、標準的な治療の”届く範囲”と”届かない範囲”を見極め、その先により具体的に寄り添えるようになります。

現在準備を進めている中医統合ケアアカデミーでは、こうした更年期世代へのアプローチについても体系的に扱っていく予定です。
詳細は追ってお知らせしますので、ご関心のある方はぜひ楽しみにお待ちください。

今回はこの辺で。

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