紅麹問題で考えたこと

東洋医学×分子栄養学

いつも読んでいただいてありがとうございます。

先日来騒ぎになっている小林製薬の紅麹問題で、皆さんは何を思いましたか?

麹って危険なの?
やっぱりサプリはダメ?
機能性表示食品よりトクホ(特定保健用食品)の方が安心!?

いろいろな疑問が生まれたかもしれません。
ということで今回は、これをキッカケに僕が考えたことを書いてみます。

紅麹の何が問題なのか?

何が問題の本質かを見ないで、何となく怖がったり買い控えたりしていませんか?

今回の問題でいうと、紅麹が悪いのかどうかは分かっていません。
つまり亡くなる方が出るような腎機能に問題を起こした原因物質やサプリとの因果関係などは、いまの時点では特定されていないということ。

分かっているのは、小林製薬の対応が典型的な日本の大企業の対応と同様にリスク管理できていないことや対応が非常に遅いことぐらいです。

そんな状況でただ「麹って怖いよね」とか「サプリは飲まないほうがいいかも」とか言っているのは、テレビで放送されたことを鵜呑みにするだけで、自分で調べたり考えたりできない人がすることですね。

麹菌について

今回のことをキッカケに考えたことについて、少し僕なりに問題点を整理してみます。

まずは麹菌と紅麹菌の違いについて。

麹菌はアスペルギウス(Aspergillus)属、紅麹菌はモナスカス(Monascus)属の糸状菌で、種類は違うけどどちらもカビです。

いずれも古くから食品の発酵などに使われてきたものです。

日本酒、味噌、醤油、酢、味醂、焼酎、泡盛、甘酒、塩麹などに使用されている麹づくりには基本的に麹菌を使います。

紅麹菌の方は、中国の紅酒や沖縄で有名な豆腐ようをつくるのに使われてきました。

近年は、天然色素として美しい色が出る上に健康にも良いので、中国・台湾・日本などで幅広く利用されています。
この添加物の着色剤としての使用の方が一般的かもしれません。

この紅麹がもつロバスタチンという成分にはコレステロールを低下させる作用があるので、紅麹由来の健康食品などが多く販売されています。

じつはコレストロール値を下げる効果が期待できる成分(モナコリンK)が遠藤章東京農工大学名誉教授によって発見されたんですけど、これがロバスタチンというものだということが後になってわかりました。

これって脂質異常症の治療に使われる有名なスタチン系の薬剤の一種ですね。
このロバスタチンは、日本国内ではモナコリンKの特許のために非承認だったんですけど、コレステロールを下げる薬として世界中でいちばん売れたいわれています。

一方、紅麹菌の中にはシトリニンというカビ毒をつくるものもあり、腎臓の病気を引き起こすおそれがあるとされています。

今回の腎障害、最初はこれが原因じゃないかともいわれましたけど、最近になって小林製薬からプベルル酸という青カビからつくられる物質かもしれないとの報告があったようです。

これがなぜ突然に紅麹の製造工程で発生するようになったのかは、さらなる調査結果を待つしかないですね。

発酵について知っておいてほしいいこと

この機会に発酵について皆さんに伝えておきたいことを書きます。

日本は世界的にみても発酵大国です。
上でも書いたようにたくさんの発酵食品が食生活に使われています。
その種類は他の国に比べて飛び抜けて多いんです。

この発酵という調理法によって、食品の保存性を高めたり、味を良くしたり、消化吸収を良くしたり、栄養価を上げたりできるようになったのは、長い時間をかけた日本人の食に対する改善の努力の結果です。

だからこそ、本物の発酵を使うべきです。
皆さんはご自分がふだん家庭で使っている醤油がどうやってつくられたものか知っていますか?

僕は以前、発酵にハマっていたことがあるんです(笑)が、結果的に発酵に関するセミナーをシリーズ化したくらいなんです。

そのときの発酵の師匠が言っていたんですけど「黒い塩水としか言いようがない醤油がいまはあふれている」と。

それからもうひとつ。
発酵食が全ての人にとってメリットばかりがあるわけではないことも知っておいてください。

例えばヨーグルトによく入っている腸まで届く乳酸菌
ほとんどの乳酸菌は胃酸で死ぬので、ふつうは生きて腸までは届かないんですね。

企業や研究者が見つけた腸まで届く特殊な乳酸菌を培養して、ヨーグルトに入れているわけです。
つまり、「腸まで届く乳酸菌入り」というのは、1種類の特殊な乳酸菌がたくさん入っているという意味です。

腸内環境というのは人によって様々で、個別性と菌の多様性がポイントなんですね。
だから、このヨーグルトを食べてたまにお腹の調子が良くなる人もいるけれど、ほとんどの人にとってはあまり効果がないはずだし、ほぼ1日で腸内から出ていってしまういわゆる通過菌がほとんどなんです。

やっぱり長く発酵食を食生活の中で育んできた日本人がとるべき腸内環境を良くするためプロバイオティクスなら、糠漬けや良い味噌、醤油です。

最近の発酵ブームのせいか、SIBOという小腸内で微生物が異常に増殖する病気が増えているとも考えられるので、むやみに発酵食をたくさん摂ればいいと思ってもいけません。

発酵食を摂ると食後にお腹が張るような人は、このSIBOの可能性があります。
実際に私の患者さんでも何人かいました。

東洋医学とか発酵のように長く使われてきたものには、時間のエビデンスがあると思っています。
ですからそれを、簡単につくろうとか、安くつくろうとか、オシャレにしようというふうに妙なアレンジしてしまうのは問題だと思うんです。

最近の塩麹や甘酒、醤油麹などは、そういう意味でも食としての効果や安全性についてもうちょっと様子を見る必要があると思っています。

では、サプリは危険なのか?

サプリについても書いておきます。

私の専門は東洋医学なので、以前は「サプリなんて」と思っていました。
最近は分子栄養学を学んだため、必要に応じてある期間特定のサプリメントを使うことで病気や症状を改善しやすくなる、ということが分かるようになりました。

その人にあった栄養素を必要な量だけ摂ることで治療的な使い方ができるということは、このブログでもずっと書いてきているとおりです。

それでも一生飲み続けるものではありません

僕が診ていたある患者さんは、サプリの定期購入を僕のアドバイスで止めたら、サプリ会社の担当者から何度も電話がかかってきて、解約を引き止められたそうです。

そんなものに月に数万円も使っているお年寄りはたくさんいます。
それっておかしいと思いませんか?

サプリは飲む目的と必要な栄養素、量が大事なんです。
最近では、大量のヘンテコリンなサプリを飲んでいる患者さんの、サプリの断捨離をする機会が多くなっています(笑)

皆さんにも、そういうことをキチンとアドバイスできる臨床家になって欲しいです。

ついでに漢方薬のことについて

ところで、「薬は飲みたくないけど漢方薬ならいいかも」という患者さんは意外に多いですね。
東洋医学の治療方法のひとつである鍼灸を受診する患者さんには、特に多いのかもしれません。

でも漢方薬もれっきとした薬です
誤った処方で体調を崩したり、場合によっては死ぬこともあることは知っておくべきです。

材料となっているものが自然のものだからといって、「体にやさしい」というイメージを持ちすぎるのはどうかと思います。

実際、先日も患者さんから「最近腹部の異常な張りが起こるようになったんですけど、何が原因かわからない」というLINEをもらって色々と聞き取りをしたところ、どうも怪しいのは最近処方が変わって増えた漢方薬じゃないかということになりました。

その患者さんが「じゃあ私、この漢方薬を止めてみます」というのでそうしてもらったところ、たちまち症状が治ったという経験をしました。

僕たち鍼灸師が医師の処方に口出しできないことは法律で決まっていますけど、明らかに東洋医学や漢方薬の知識も東洋医学的な診察能力(脈診、舌診、腹診など)もない医師が、症状ごとに何種類もの漢方薬を弁証の統一性もなしに処方するのは、さすがに考えものだなぁと思ってしまいます。

一方、サプリにもいろいろなものがあるので一括りには言えないんですけど、サプリは基本的には栄養素です。

もちろん栄養素でも摂取量や種類によっては副作用の可能性はありますが、薬と栄養素は根本的に違うものです。

ただし今回の問題でひとつ教訓になったのは、変な名前のサプリは選ばない・飲まない方がいいということ。

小林製薬って、以前から薬やサプリに変わった名前を付けたがる製薬会社ですよね。
良く言えば分かりやすいけれど、悪く言えば怪しい。

今回のは「紅麹コレステヘルプ」だし、有名なのでは防風通聖散という漢方薬に「ナイシトール」なんて名前を付けて売ってたりします。

現代で問題になっているいわゆる生活習慣病という名の慢性疾患は、ある薬を飲んだら簡単に治るタイプの病気ではありません

食事、運動、睡眠、ストレス、老化などが複雑にからんで病気が生まれているので、ひとつの方法だけで簡単に治らないものだと考えるべきなんです。

そういう根本的なことを患者さんに理解してもらうようにすることも、僕たち鍼灸師の仕事ではないでしょうか。

まとめ

これを飲んだら悪玉コレステロール値が下がるなんていうふうに、健康ってそんなに単純なものではありませんよね。

そんな怪しいサプリを飲むよりも、日々の食事の内容や量を気にすることの方が全然大事です。

そういう意味でも、自分の体調と食事の内容をリンクさせることができるようになることがとても大切なことなんですね。

「病気になったらお医者さんに薬を出してもらって飲めば大丈夫」などという考え方は止めて、「自分の健康は自分で守る」ことの大切さを知りましょう。

もしサプリが飲みたいのなら、それが必要かどうかも含めて専門家のアドバイスを受けましょう。

長くなりましたが、今回はこの辺で。

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