患者を前にしたとき、何を聞けばいいのか分からない
前回は、「東洋医学を勉強したのに、なぜ臨床では使えないと感じるのか?」という話をしました。
学校で学んだ知識と、実際の患者さんを診るための思考。
この二つの間をつなぐものとして、「臨床推論」という考え方があるのではないか、という話でした。
今回は、もう少し具体的なところから考えてみたいと思います。
患者さんを目の前にして、「何を聞けばいいんだろう?」となってしまうこと、ありませんか?
問診票にはいろいろ書いてある。
主訴も聞いた。
でも、その次に何を聞けばいいのか分からない。
あるいは逆に、学校で習った問診項目を片っ端から聞いているうちに、情報はたくさん集まったけれど、「……で、この情報をどうすればいいんだろう?」となってしまう。
今回は、この問題を考えてみましょう。
「疲れやすいんです」――さて、次に何を聞きますか?
前回登場した28歳の女性に、もう一度来てもらいましょう。
主訴は、「最近、どうも疲れやすいんです」です。
さて、皆さんなら次に何を聞きますか?
「いつからですか?」「睡眠はどうですか?」「食欲はありますか?」「便通は?」「冷えはありますか?」「月経はどうですか?」など、いろいろ思い浮かぶと思います。
では、もう一つ質問します。
なぜ、それを聞くのでしょう?
ここが今回、一番考えてみたいところなんです。
「いつからですか?」にも理由がある
例えば、「いつから疲れやすいのですか?」と聞いたとします。
ごく普通の質問ですよね。
でも、なぜ聞くのでしょう?
1週間前からなのか、半年前からなのか、学生時代からずっとなのか、それによって考えることは変わってきます。
例えば、急に始まった疲労であれば、感染症などの急性疾患や急激な生活環境の変化なども考える必要があります。
症状の経過や程度によっては、鍼灸院だけで対応してよい状態なのかを考える必要もあります。
一方、何年も続いているのであれば、睡眠、食事、仕事、ストレス、月経など、長期的な負荷や生活背景も確認したくなります。
つまり、「いつからですか?」という一つの質問にも、その後ろには考えていることがある。
質問そのものが大切なのではなく、その答えによって「次に何を考えるか」が大切なんですね。
「睡眠はどうですか?」と聞くのはなぜ?
では次に、「睡眠はどうですか?」と聞いてみましょう。
患者さんは、「最近、夜中に何度か目が覚めます」と答えました。
さて、ここから何を考えますか?
単純に考えても、睡眠が十分に取れていなければ、日中の疲労感に影響している可能性があります。
では、もう少し聞いてみたいですよね。
寝つきが悪いのか、途中で目が覚めるのか、朝早く目が覚めるのか、何時に寝て何時に起きるのか、目が覚めたあとまた眠れるのか、朝起きたときに回復した感じがあるのか。
東洋医学的にも、睡眠の状態は心・肝・脾・腎、気血などを考えていく材料になります。
ただし、「途中で目が覚める=○○証」と、すぐに決めるわけではありません。
大切なのは、睡眠という情報を、ほかの情報とどうつなげていくかです。
「朝ごはんは何を食べていますか?」
さらに話を聞いてみると、この患者さんは「朝はあまり食欲がないので、コーヒーだけなんです」と言いました。
ここで、「朝食を食べた方がいいですよ」とすぐに食事指導をしたくなるかもしれません。
でも、その前にちょっと考えてみましょう。
なぜ、朝に食欲がないのでしょう?
夕食が遅いのかもしれません。
夜遅くまで何か食べているのかもしれません。
睡眠の問題が関係しているかもしれません。
そもそも昔から朝は食べられない人なのかもしれません。
そこで、「夕食は何時頃ですか?」と聞いてみる。
すると、「仕事が終わるのが遅いので、だいたい21時を過ぎます」という答えが返ってきました。
なるほど。少しずつ情報がつながってきましたね。
問診は「質問リスト」ではなく、会話しながら仮説を作っていく
ここまでの流れを少し振り返ってみましょう。
最初にあった情報は、「28歳女性・疲れやすい」だけでした。
そこから、疲労はいつからなのか、睡眠はどうなのか、朝食はどうなのか、夕食は何時なのか、と聞いてきました。
これは、あらかじめ決められた質問を順番に消化しているわけではありません。
患者さんの答えを聞いて、「それなら、これも確認したい」「だとすると、こちらの可能性はどうだろう?」と、次の質問が生まれています。
つまり問診とは、質問 → 答え → 仮説 → 次の質問 という流れでもあるんです。
患者さんとの会話の中で、少しずつ仮説を作り、修正していく。
こう考えると、問診の見え方が少し変わってきませんか?
「食後に眠くなりますか?」を、なぜ聞くのか
もう少し続けてみましょう。
患者さんに、「食後に眠くなることはありますか?」と聞いてみます。
すると、「あります。特にお昼を食べた後はすごく眠いです」と答えました。
ここで東洋医学を学んでいると、食後の倦怠感や眠気、食欲、便通などから脾の運化の問題を考えるかもしれません。
一方、栄養・代謝の側から見ると、何をどのくらい食べているのか、食事の間隔はどうなのか、食後の血糖変動なども考える材料になります。
そこで、「お昼は何を食べることが多いですか?」と聞いてみる。
すると、「時間がないので、パンだけで済ませることが多いです」と答えた。
なるほど。
でも、ここでもまだ、「原因はこれだ!」とは決めません。
一つの情報が増えたことで、新しい仮説が加わった。
そのくらいに考えておいた方がよいと思います。
一つの質問から、次の質問が生まれる
ここまでを流れにすると、こんな感じです。
疲れやすい → いつから? → 慢性的 →
睡眠は? → 中途覚醒がある →
朝の状態は? → 食欲がなくコーヒーだけ →
夕食は? → 21時以降 →
食後は? → 眠気が強い →
昼食は? → パンだけが多い
こうやって見ると、問診というのは「質問項目をたくさん知っている人が上手」というわけではないことが分かります。
大切なのは、患者さんの答えを聞いて、次に何を考えるか。
そして、その考えを確かめるために、次に何を聞くか、なんです。
東洋医学でも同じことができる
これは、栄養や生活習慣の話だけではありません。
例えば、この患者さんに「冷え」もあったとします。
そこで、「手足が冷えるのですか?」「身体全体が寒い感じですか?」「温めると楽ですか?」「冷たいものをよく飲みますか?」「月経のときはどうですか?」などを確認する。
なぜ聞くのか。
寒熱を考えたいのか、虚実を考えたいのか、気血との関係を見たいのか、月経との関連を見たいのか。
質問の後ろにある「なぜ?」が分かっていれば、東洋医学の知識が問診の中で動き始めます。
逆に、「冷えがある=陽虚」とすぐに決めてしまえば、そこで思考が止まってしまいます。
「正しい質問」を探さなくてもいい
患者さんを前にして何を聞けばいいのか分からなくなると、「問診項目をもっと覚えなければ」と思ってしまうかもしれません。
もちろん、基本的な問診項目を学ぶことは必要です。
でも、私はそれだけでは解決しないと思っています。
なぜなら、実際の患者さんは一人ひとり違うからです。
大切なのは「この症状には、この質問」という正解を覚えることより、
「今、自分は何を考えているのか。それを確かめるには、何を聞けばいいのか」
と考えることです。
そうすると、質問は暗記したリストからではなく、自分の仮説から生まれるようになります。
ただし、仮説を持つことにも注意が必要です
ここまで「質問の後ろには仮説がある」と書いてきました。
ただし、ここには一つ注意点があります。
仮説を持つことと、最初から答えを決めることは違います。
「この患者さんは気虚だ」と決めて、それに合う情報だけを探すのではありません。
「気虚かもしれない。でも、ほかの可能性は?」と考える。
そして患者さんの答えによって、「やっぱりこの可能性が高そうだ」となることもあれば、「あれ? 違うかもしれない」となることもある。
むしろ、自分の最初の考えを変えられることも、臨床推論ではとても大切です。
「何を聞く?」の前に「何を考えている?」
患者さんを前にして、「何を聞けばいいんだろう?」となったとき、質問項目を思い出そうとする前に、一度こう考えてみてください。
「今、この患者さんについて、私は何を考えているんだろう?」
そして、「それを確かめるには、何を聞けばいいんだろう?」と考える。
つまり、
何を考える? → 何を聞く? → なぜ聞く? → 答えから何を考える? → 次に何を聞く?
という流れです。
この繰り返しが、患者さんの状態を少しずつ理解することにつながっていきます。
次の患者さんで、一つだけ試してみてください
次の臨床で、全部の問診を変える必要はありません。
一つだけでいいので、患者さんに質問したあと、「今の質問は、なぜ聞いたんだろう?」と考えてみてください。
そして患者さんが答えたら、「この答えから、私は何を考えたんだろう?」と、もう一度考えてみる。
これを一つの質問だけでもやってみると、問診が少し違って見えてくると思います。
そして、ここまで来ると次の疑問が出てきます。
「質問の後ろに仮説があるのは分かった。
でも、その仮説そのものは、どうやって作ればいいんだろう?」
そうなんです。
そこが次に考えたいところなんです。
次回は、「その質問で、何を確かめたいのか?――仮説を作るということ」をテーマに、「質問する」からもう一段進んで、「臨床でどのように仮説を組み立てていくのか」を考えてみたいと思います。
患者さんに「食後に眠くなります」と言われたとき、あなたなら次に何を聞きますか?
そして、その答えから何を確かめようとしていますか?

