遺伝子だけですべては決まらない!

東洋医学×分子栄養学

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今回は遺伝と食事の関係について。

一昔前までは「遺伝子がすべてを決める」と思われていました。
ですが遺伝子が同じでも、その発現をコントロールするシステムがあることがわかってきました。

これをエピジェネティクスといいます。

そしてこれにはさまざまな環境要因が影響を与えます。
具体的には食事、大気汚染、喫煙、酸化ストレスへの暴露などです。

そう、今回は食事を変えれば遺伝子の問題もある程度克服できる可能性があるというお話です。

アンジェリーナジョリーの乳房切除手術

ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーは、2013年5月14日付のNEW YORK TIMESに「My Medical Choice」(私の医療上の選択)という記事を掲載し、乳がんの予防のために両乳房切除・再建手術を受けていたことを公表しました。

理由は、彼女の母親が2007年に56歳の若さで乳がんで亡くなったのを受けて遺伝子検査を受けた結果、乳がんの発症率が非常に高いBRCA1という遺伝子の変異が見られたから。

担当医師によれば、彼女の乳がんの発症リスクは87%、卵巣がんが50%と診断されたようです。
この事実を知って、彼女は予防的な両乳房切除手術を決断したとのこと。

当時はその行動が賞賛されたようですけど、医療関係者の反応は「乳がんの遺伝子を持っているからといって、必ずしも乳房切除手術が適切とは言えない」という慎重な意見が多かったようです。

これが正しかったのか、そうではなかったのかの判断は難しいです。

でも上で書いたエピジェネティクスという考え方に従うと、遺伝子の発現に影響を与える環境因子、なかでも食事を変えることで、乳がんの発症リスクが抑えられた可能性は否定できません。

エピジェネティクスとは?

ちょっとエピジェネティクスについて解説しておきましょう。

エピジェネティクス(epigenetics)とは、「遺伝子の塩基配列は同じなのに遺伝子の発現が変わる現象のこと」とされています(Wikipedia)。

これではなんのこっちゃ分からないと思うので、もう少し簡単に説明します。

DNAと言えば、いわば「命の設計図」ですね。

その人がどんな体質で、どんな能力を持っていて、どんな病気になりやすいのかは、生まれもったDNAによっておおよそ決められている、と思われがちです。

でも、その設計図であるDNAには「スイッチ」があったんです。 つまり、どこをオンにしてどこをオフにするか、でDNAが一緒でも違う細胞になるというわけ。

このスイッチがエピジェネティクスです。

それぞれの細胞の種類ごとに、すべての遺伝子情報のなかからここは読み取りができて、ここはできないというふうに、情報読み取りのスイッチをオン・オフできるんです。

受精卵はエピジェネティクスが消去されて(スイッチがすべてオンの状態の)万能性を持った細胞だから、すべての種類の細胞になることができる細胞ということになりますね。

がん細胞にも影響する

ところで、がんにもエピジェネティクスは関わっているといわれています。

そもそもがんは、細胞分裂が異常にたくさん起こる病気です。

細胞分裂に関わる遺伝子はたくさんあるようですけど、細胞分裂を増長させようとする遺伝子と抑制しようとする遺伝子があって、正常な細胞では両者の働きは適度に調節されています。

ところががん細胞では、細胞分裂を抑制する遺伝子がエピジェネティクスによってオフになってしまっていることがあるといわれています。

すると細胞分裂を抑え込めないので、細胞がドンドン増えすぎてしまってがん化するんですね。

エピジェネティクスに影響を与えるもの

それじゃあ、そのエピジェネティクスをどうにかできないものなかって思いますよね。

そのひとつの例とし有名なのが女王蜂と働き蜂
ここにもDNAのスイッチ、つまりエピジェネティクスが関係しています。

メスの働き蜂と女王蜂はまったく同じ遺伝子をもっているのに、幼虫の頃にローヤルゼリーを食べて育ったハチだけが女王蜂になるそうです。

女王蜂になると働き蜂に比べて体の大きさは1.5倍に、寿命は20倍になって、1日に卵を2000個も産むといわれています。

これほどの違いも、生まれもったDNAではなく、後天的な要因によるDNAのスイッチの切替えによって引き起こされるとということですね。

実際のところ、このようなエピジェネティクスによる遺伝子発現のコントロールは、食事、大気汚染、喫煙、酸化ストレスへの暴露などの環境要因によって動的に変化することがわかっています。

なかでも食事はその影響が大きいようです。
なんだかロイヤルゼリーを食べたくなりますね(笑)

東洋医学は見抜いていた?

話を東洋医学に移しましょう。

東洋医学には、先天の精と後天の精という考え方があります。

精とは人体を構成している基本的物質で、気に変化してさまざまな活動のエネルギー源として利用されるんでした。
『素問』金匱真言論には「夫れ精は、身の本なり」とあるように、とても重要なものですね。

この精には、先天の精と後天の精があります。

先天の精とは父母から受け継ぐもので、後天の精とは飲食物からのものとされているので、つまり先天の精は遺伝的素因のことで、後天の精のメインは食事です。

そしてこの二つが合わさって気血水を生じ、生命活動を支えているわけです。

上で書いたことと同じですよね。
遺伝だけでは全ては決まらないので、生まれた後の食事をきちんとすることが大事だよといっているわけです。

『素問』陰陽応象大論には「精足らざる者は、味を以て之を補え」とあります。
ここにある味とは水穀、つまり飲食物のことですね。

やっぱり東洋医学ってすごいですよね!

やっぱり食事が大事だよ

以上のように見てくると、遺伝子情報にまで影響を与える可能性がある食事がいかに大切かがわかると思います。

よく家族性とか遺伝性の病気のことを耳にしますが、家族(特に同居している場合)は同じ食事をする傾向にあるので、だとすると同じ病気になることが遺伝子だけの影響ではない可能性があるともいえます。

栄養療法をきちんと行う場合に遺伝子検査をすることもあるのですが、このように考えてくると遺伝子検査の目的はどんな病気を発症するリスクが高いかを確かめることにあると捉えることができるかもしれません。

リスクを知れば、食事や生活環境を変えることで発現を抑える方向にもっていける可能性があるからです。

運命は変えられないと諦めるのではなく、自分の運命を変えられるのは自分だと自覚することが大事なんですよね。

食事をコントロールできるのは自分だけですから。

今回は以上です。

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