学校から臨床へ #03:「何を聞くか」より「なぜ聞くか」

東洋医学×分子栄養学

― 東洋医学と分子栄養学を臨床でつなぐ問診の考え方

このブログではこれまで、東洋医学に分子栄養学の視点を加えることで、患者さんをもう少し広く見るための考え方をお伝えしてきました。

最近は少しテーマが変わったように感じている方もいるかもしれません。でも、私の中では、やろうとしていることはあまり変わっていません。

東洋医学の知識も、分子栄養学の知識も、それだけでは患者さんを診ることはできません。
大切なのは、「この患者さんに、どの知識を使えばいいのか」を考えられることです。

そこで最近は、その「知識を臨床につなぐ部分」、つまり臨床でどう考えるかについて、少し掘り下げています。

今回のテーマは、問診です。

患者さんを前にすると、「何を聞けばいいんだろう?」と迷うことがあります。
だから問診を勉強しようとすると、つい「質問項目」を増やしたくなります。
睡眠、食欲、便通、冷え、汗、月経、疲労感……。

もちろん、何を聞くかを知っていることは大切です。
でも、臨床ではそれだけではなかなかうまくいきません。
大切なのは、「何を聞くか」よりも、「なぜ、それを聞くのか」です。

同じ質問でも、意味はまったく違う

たとえば、「睡眠はどうですか?」という質問があります。
問診ではよく使う質問ですよね。

でも、なぜ睡眠について聞くのでしょう。

問診項目の一つだからでしょうか。
それとも、「疲れが抜けない原因に睡眠が関係していないか」「夜中に何度も目が覚めていないか」「朝起きたときに回復感があるか」といったことを考えながら聞いているでしょうか。

同じ「睡眠はどうですか?」でも、何を考えながら聞いているかで、その質問の意味は変わります。
そして患者さんの答えを聞いたあとの質問も、当然変わってきます。

「聞くこと」が目的になっていないか

学校では、問診で確認する項目をたくさん学びます。
寒熱、飲食、睡眠、二便、汗、月経。こうした項目を覚えることは、もちろん必要です。

ただ、臨床に出るとひとつ問題が起こります。
「聞くこと」そのものが目的になってしまうことがあるのです。

睡眠を聞いた。便通も聞いた。食欲も聞いた。冷えも確認した。一通り聞いたので、問診はできた。
でも、その情報から患者さんの状態が見えてこない。
そんな経験はないでしょうか。

これは質問が足りないというより、「その質問で何を知りたいのか」が決まっていないことが原因かもしれません。

患者さんの答えから、次の問いを作る

たとえば患者さんが、「最近、夕方になるとすごく疲れるんです」と言ったとします。

ここで「疲れやすい」と記録して終わることもできます。
でも、「なぜ、夕方なんだろう?」と考えると、少し景色が変わります。

朝から疲れているのか。それとも午後になってから疲れるのか。昼食後に眠くなるのか。昼食を抜くことがあるのか。夕方になると甘いものが欲しくなるのか。仕事の日だけなのか。休日も同じなのか。睡眠は取れているのか。

こうしてみると、ひとつの「疲れる」という訴えから、いくつもの確認したいことが出てきます。

つまり、質問は最初から全部決まっているわけではありません。
患者さんの答えを聞きながら、次の質問を作っていく。
これが、臨床での問診の大切なところだと思います。

東洋医学と分子栄養学では、見えるものが違う

同じ「夕方になると疲れる」という訴えでも、東洋医学と分子栄養学では、気になるポイントが少し違います。

東洋医学では、気虚や脾の働き、寒熱、食欲、便通、舌や脈などを確認したくなるかもしれません。

一方、分子栄養学の視点では、昼食の内容や食事間隔、食後の眠気、甘いものへの欲求、エネルギー代謝、睡眠なども確認したくなります。

大切なのは、どちらが正しいかを決めることではありません。

東洋医学と分子栄養学という二つのレンズを使いながら、「この患者さんでは何が起きているのだろう」と仮説を広げていくことです。

そのためにも、「疲れますか?」と聞いて終わるのではなく、なぜ疲れるのかを考えるために、次に何を聞くかが重要になります。

「なぜ聞くか」があると、仮説が見えてくる

では、なぜ次の質問が出てくるのでしょう。
それは、頭の中に小さな仮説があるからです。

「睡眠が関係しているかもしれない」「食事のタイミングが関係しているかもしれない」「仕事による負荷が強いのかもしれない」「東洋医学的には気虚だけでは説明できないかもしれない」。

もちろん、この時点で答えを決める必要はありません。
むしろ、決めないことが大切です。

ひとまず仮説を立てて、質問してみる。
答えが違えば、仮説を修正する。
そして、さらに必要なことを確認する。

仮説 → 質問 → 答え → 仮説の修正 → 次の質問

臨床では、この繰り返しがとても重要です。

東洋医学でも、すぐに「証」を当てにいかない

これは、東洋医学でも同じです。

たとえば「冷えがありますか?」と聞いて、「はい、あります」と答えた。
ここで「冷えるから陽虚かな」と考えることもできます。

でも、本当にそれだけでよいでしょうか。

どこが冷えるのか。手足なのか、下半身なのか、お腹なのか。
温めると楽になるのか。冷えと同時にのぼせはないのか。
汗はどうか。食欲はどうか。便通はどうか。月経や排尿はどうか。舌や脈はどうか。

こうした情報を重ねていくことで、初めて病機の仮説が少しずつ見えてきます。

つまり、症状を聞いて、すぐに「証」を当てにいくのではない。
ひとつの情報から仮説を作り、別の情報で確かめていく。

東洋医学の弁証も、本来はそういう思考の積み重ねではないでしょうか。

問診は「質問リスト」ではなく、考えるための時間

問診票に沿って質問すること自体が悪いわけではありません。
聞き漏らしを防ぐためには必要です。

ただ、その先にもう一段あります。
「この質問をすることで、私は何を確かめたいのか」と考えることです。

たとえば、「便通はどうですか?」と聞くとします。

便秘か下痢かを知りたいだけなのか。
排便頻度を知りたいのか。
便の状態を知りたいのか。
食事との関係を見たいのか。
腹部症状との関係を見たいのか。
東洋医学的な寒熱・虚実を考える材料にしたいのか。

何を知りたいかによって、その次に聞くことは変わります。

問診とは、決められた質問を順番に消化することではありません。
患者さんを理解するために、必要な情報を選びながら集めていく作業なのだと思います。

まず一つの質問に「なぜ?」をつけてみる

問診力を上げたいと思ったとき、すぐに新しい質問項目を覚えなくても構いません。
まず、自分が普段している質問に、「なぜ、これを聞いているんだろう?」と付け加えてみてください。

「睡眠はどうですか?」
なぜ聞くのか。

「食欲はありますか?」
なぜ聞くのか。

「冷えはありますか?」
なぜ聞くのか。

「疲れやすいですか?」
なぜ聞くのか。

その理由が自分の中で言葉にできるようになると、患者さんの答えの受け取り方が変わってきます。
そして、次に何を聞けばいいかも少しずつ見えてきます。

患者さんを診るときに大切なのは、「正しい質問を全部知っていること」ではありません。
なぜその質問をするのかを考え、答えから次の問いを作ること。
ここから、問診は「情報収集」ではなく、「臨床で考えるための時間」に変わっていきます。

そして、この考え方は、東洋医学にも分子栄養学にも共通しています。
どちらの知識も、患者さんに当てはめるためにあるのではなく、患者さんを理解するための仮説をつくる材料です。

次回は、その続きをもう少し具体的に考えてみます。

患者さんから「最近、疲れやすくて……」と言われたとき、東洋医学を学んできた私たちは、つい「疲れる=気虚」と考えたくなることがあります。

でも、本当にそれで十分なのでしょうか。

次回は、「『疲れる=気虚』で終わっていませんか?」というテーマから、患者さんの訴えを東洋医学と分子栄養学の両方からどう広げて考えるかを見ていきたいと思います。
「何を聞くか」より「なぜ聞くか」

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